パナソニック改革のキーマン・馬場渉、絶対的な差が付くビジネスを話そう
「それは天気だ。どんな課題を設定できるかを意識している」
日本の電機メーカーが攻めあぐねている。海外の競合相手はIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)など先進技術を上手に訴求し、家電や重電の分野で存在感を高めている。また“コトづくり”を中心とするニーズにも素早く対応し、消費者の心をつかむ。日本の電機各社は国際競争で海外勢とどう戦い、版図を広げるのか。パナソニックにおける改革のキーパーソン、馬場渉ビジネスイノベーション本部副本部長へのインタビュー。
―SAPから転職し5カ月がたちました。
「すでに、新しい住空間体験を提案する『ホームX』プロジェクトを始めた。(わずか3カ月で始動できたのは)パナソニックが持つ総合力にある。総合電機メーカーとして各事業や製品を活用すれば、驚異的なスピードで実現できる」
「例えば、新たな家電製品を試作する際、『自動運転の技術などが使える』という意見が出て、約4時間で製作できた。パナソニックの各事業部の製品・技術をつなぎ合わせるだけで完成度の高い試作品ができる」
―馬場氏が常駐するシリコンバレーもビジネスのスピードが速い印象があります。
「質が違う。シリコンバレーのスピードは大学やベンチャーキャピタルなどと形成するネットワーク型だ。近くのカフェで話した内容から個人のアイデアまで“玉石混交”の情報が集まる」
「確かに情報の収集や流れは速い。加えて、シリコンバレーの企業は目利き力があり、ビジネスへ昇華できる。だが、単なる雑談で終わる場合も少なくない」
―総合力が日本の電機メーカーの強みになり得ますか。
「新興企業はクラウドファンディングの登場などで(事業化までの)速度が増している。ただアイデアの段階から考えると、実際には時間を要している」
「一方、日本の総合電機は、すでに最適化された技術・製品が社内にある。実績もあり、品質が担保されている。もし社内資産を用いて(素早く)実現できるのなら、それに越したことはない」
―ビジネスイノベーション本部で、どんなアイデアが挙がっていますか。
「例えば『天候操作』などを思案している。インターネットの登場により、地域差や時間差という課題を解決する技術やビジネスの競争力がなくなった。もっと絶対的な差があるビジネスに挑戦する必要がある」
「それが天気だ。実際に天候を操作して観光に役立てたり、仮想現実(VR)でハワイの環境を再現するなど、天気を操ることで考えられるビジネスは多岐にわたる」
―アイデアを生む秘訣(ひけつ)は。
「ビジネスイノベーション本部は一つの事業を行うための組織ではない。革新的な取り組みを行う場所だ。最適化された事業部門内だけで議論していただけではもったいない。イノベーションの発生確率を少しでも上げるために多くの事業部を招いて交流している」
「また長期的にはアイデアを枯渇させないために、きっかけが生まれる土壌作りが重要だ。企業内の合意形成を横に置き、アイデア創出に専念できるように努めている」
―現場の従業員にはどんなことを説いていますか。
「『イノベーションの量産』というパナソニック全社でやろうとしている経営的な意味合いを翻訳し、現場ごとに伝えている。同時に好奇心を忘れず、固定概念にとらわれない考え方を推奨している。また米アップルや米グーグルなどと先進的な企業と敵対するだけでなく、必要であれば連携や利用することでどんな課題を設定できるかを意識している」
―日本企業にとって課題設定は苦手としていますか。
「日本は『問題解決力』がある。例えば高度経済成長期などはメーカーが家電を通して世界中の人々の悩みを利便性で解決してきた。だが、解決する技術や製品はメソッド化、コモディティー化してしまっている。そのため、課題さえ見つければいくらでもアプローチできるのが現代だ」
「だから課題や目標の設定からやり直すべきだろう。より困難で大きな課題が待っている。課題設定後に磨くべき解決力を定めればいい。それにより引き続き強みを生かせる」
(聞き手=渡辺光太)
【略歴】
2014年に日本初となるSAPジャパンチーフイノベーションオフィサーに就任。スタートアップ企業の支援にも携わった。パナソニックでは「イノベーションの量産」を掲げるビジネスイノベーション本部の副本部長に起用された。新しい住空間を作る「ホームX」プロジェクトを立ち上げ、新風を巻き起こしている。>
―SAPから転職し5カ月がたちました。
「すでに、新しい住空間体験を提案する『ホームX』プロジェクトを始めた。(わずか3カ月で始動できたのは)パナソニックが持つ総合力にある。総合電機メーカーとして各事業や製品を活用すれば、驚異的なスピードで実現できる」
「例えば、新たな家電製品を試作する際、『自動運転の技術などが使える』という意見が出て、約4時間で製作できた。パナソニックの各事業部の製品・技術をつなぎ合わせるだけで完成度の高い試作品ができる」
―馬場氏が常駐するシリコンバレーもビジネスのスピードが速い印象があります。
「質が違う。シリコンバレーのスピードは大学やベンチャーキャピタルなどと形成するネットワーク型だ。近くのカフェで話した内容から個人のアイデアまで“玉石混交”の情報が集まる」
「確かに情報の収集や流れは速い。加えて、シリコンバレーの企業は目利き力があり、ビジネスへ昇華できる。だが、単なる雑談で終わる場合も少なくない」
―総合力が日本の電機メーカーの強みになり得ますか。
「新興企業はクラウドファンディングの登場などで(事業化までの)速度が増している。ただアイデアの段階から考えると、実際には時間を要している」
「一方、日本の総合電機は、すでに最適化された技術・製品が社内にある。実績もあり、品質が担保されている。もし社内資産を用いて(素早く)実現できるのなら、それに越したことはない」
―ビジネスイノベーション本部で、どんなアイデアが挙がっていますか。
「例えば『天候操作』などを思案している。インターネットの登場により、地域差や時間差という課題を解決する技術やビジネスの競争力がなくなった。もっと絶対的な差があるビジネスに挑戦する必要がある」
「それが天気だ。実際に天候を操作して観光に役立てたり、仮想現実(VR)でハワイの環境を再現するなど、天気を操ることで考えられるビジネスは多岐にわたる」
―アイデアを生む秘訣(ひけつ)は。
「ビジネスイノベーション本部は一つの事業を行うための組織ではない。革新的な取り組みを行う場所だ。最適化された事業部門内だけで議論していただけではもったいない。イノベーションの発生確率を少しでも上げるために多くの事業部を招いて交流している」
「また長期的にはアイデアを枯渇させないために、きっかけが生まれる土壌作りが重要だ。企業内の合意形成を横に置き、アイデア創出に専念できるように努めている」
―現場の従業員にはどんなことを説いていますか。
「『イノベーションの量産』というパナソニック全社でやろうとしている経営的な意味合いを翻訳し、現場ごとに伝えている。同時に好奇心を忘れず、固定概念にとらわれない考え方を推奨している。また米アップルや米グーグルなどと先進的な企業と敵対するだけでなく、必要であれば連携や利用することでどんな課題を設定できるかを意識している」
―日本企業にとって課題設定は苦手としていますか。
「日本は『問題解決力』がある。例えば高度経済成長期などはメーカーが家電を通して世界中の人々の悩みを利便性で解決してきた。だが、解決する技術や製品はメソッド化、コモディティー化してしまっている。そのため、課題さえ見つければいくらでもアプローチできるのが現代だ」
「だから課題や目標の設定からやり直すべきだろう。より困難で大きな課題が待っている。課題設定後に磨くべき解決力を定めればいい。それにより引き続き強みを生かせる」
(聞き手=渡辺光太)
2014年に日本初となるSAPジャパンチーフイノベーションオフィサーに就任。スタートアップ企業の支援にも携わった。パナソニックでは「イノベーションの量産」を掲げるビジネスイノベーション本部の副本部長に起用された。新しい住空間を作る「ホームX」プロジェクトを立ち上げ、新風を巻き起こしている。>
日刊工業新聞2017年9月20日の記事に加筆