“ロボット版オリンピック”、日本開催で手に入れたいこと
18年にプレ、20年に本大会。「技術革新のための政策ツールだ」
世界中のロボット技術が日本に集結―。経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2018年と20年にロボットの国際競演会「ワールド・ロボット・サミット(WRS)」を開く。ものづくり、災害対応などに関する計8種の競技を行い、技術革新や国際標準の獲得につなげる。政府が15年に策定した「ロボット新戦略」で目玉に位置付ける取り組みだ。18年秋のプレ大会が迫る中、着々と準備が進んでいる。
「単なるイベントではなく、イノベーション(技術革新)のための政策ツールだ」。経産省の安田篤ロボット政策室長はWRSの開催意義をこう説明する。ものづくり、サービス、災害対応など4分野で計8種目の競技を実施予定。
参加者はロボット技術を駆使し、種目ごとに示された課題をどれだけ解決できるかを基準に得点を競う。それぞれの課題は製品組み立てや店舗内業務の自動化など、実社会のニーズを反映したもの。世界中からアイデアを募り、現実的な課題解決につなげる構えだ。
例えば工場内での製品組み立ては、搬送、加工、仕分けなどと比べ、まだロボットによる自動化が進んでいない。部品一つ一つの精度・誤差などを認識・調整しながら組み付けるのは、機械にとって難易度が高いからだ。
WRSでものづくり分野の種目となる「製品組立チャレンジ」では、特に難しい歯車のはめ合わせ作業などが課題になる見通し。参加者はセンサー技術などを用い、人が繊細な感覚を駆使して行う仕事を再現しなければならない。
WRSの競技に多くの技術者が参加することで、「切磋琢磨(せっさたくま)により研究が加速するはず」とNEDOの原大周ロボット・AI部主任研究員は期待する。各課題の解決手段だけでなく、性能評価の手法なども確立する方針だ。
将来的には課題ごとにロボットシステムの標準的な形を策定し、日本発の世界標準として発信したい考え。ロボット新戦略を掲げる政府がWRSに力を注ぐのは、このためだ。
国際競争が激化する中、“ロボット大国”として地位を固める上で、標準の獲得は欠かせない。
WRSのもう一つの狙いが人材の発掘・育成だ。4分野の一つ「ジュニア」枠では、20歳未満の学生らによる参加を想定。ソフトバンクの「ペッパー」をプログラミングする知識・技能などが評価対象になる。
優秀な若手人材を集め、大学や企業とのマッチングにつなげることなどが狙い。また、将来のプログラミング教育のあり方を探る上でも、重要な取り組みと言える。
18年10月のプレ大会まで、あと1年と少し。各競技における採点方法の検討や、会場の整備などが急ピッチで進む。前例のない試みだけに試行錯誤が続くが、昨今のロボット人気もあり注目度は高まっている。
国の未来をかけた取り組みとして、大いに盛り上がることを期待したい。
20年の本大会でインフラ・災害対応分野の一部競技で使われる「福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)」。次世代ロボットの開発に寄与する大規模実証拠点として、18年度から順次開所する計画だ。
面積約50万平方メートルの中に、トンネル、橋梁、屋外大型水槽、滑走路などを集約。陸・海・空の多様な実証環境を提供し、各種ロボットの実用化を後押しする。
トンネルのような大型設備のほか、屋内には電波暗室、降雨試験機、防爆試験装置なども配備予定。国際産学官共同施設として、利用を促す方針だ。
政府と福島県は、東日本大震災で被害の大きかった現地をロボット産業の集積地として再生する構え。WRSは先端技術を通じた被災地復興を世界にアピールする上でも、絶好の機会となる。
経産省はWRSの主催者として運営に携わる。けん引役の安田篤ロボット政策室長に構想を聞いた。
―WRSの意義は。
「ロボットの研究開発と社会実装を加速し、同時に国民の理解も深めることが狙いだ。産業の観点から言えば、特にロボットを活用しきれていない新たなユーザーに最先端の技術を見てもらいたい。開発者とユーザーなど、人材交流のきっかけにもなるはずだ。加えてロボット本体や部品のメーカーにとっては、技術を世界に発信する好機になる」
―種目には社会課題を反映しています。
「ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)内での議論などに基づき、内容が決まった。例えばものづくり分野では、マスカスタマイゼーション(個別大量生産)の時代にどう製品を組み立てるかが大きな課題だ。また、サービス分野では、特にロボットへの期待が大きい家庭と店舗での仕事に焦点を当てている」
―人材育成もテーマです。
「ロボット産業の発展には若手人材の充実が不可欠。ジュニア分野は、参加者が自ら課題を決める『オープンタスク』方式が特徴だ。ロボットがどんな課題を解決し得るかを見つける力が試される。WRSに向け8月5―6日に試験的に開いたジュニア分野の競技会では、学園祭の案内や授業での先生の支援など、さまざまなアイデアが出た」
―運営上の難問は。
「ユーザーなどに効果的に発信するため、うまく“見せる”ことが大切だ。ロボットが順調に動いているか、そうでないかなどを、観客がすぐ分かるようにしないといけない。解説方法などの工夫が必要になる」
(聞き手=藤崎竜介)
「単なるイベントではなく、イノベーション(技術革新)のための政策ツールだ」。経産省の安田篤ロボット政策室長はWRSの開催意義をこう説明する。ものづくり、サービス、災害対応など4分野で計8種目の競技を実施予定。
参加者はロボット技術を駆使し、種目ごとに示された課題をどれだけ解決できるかを基準に得点を競う。それぞれの課題は製品組み立てや店舗内業務の自動化など、実社会のニーズを反映したもの。世界中からアイデアを募り、現実的な課題解決につなげる構えだ。
例えば工場内での製品組み立ては、搬送、加工、仕分けなどと比べ、まだロボットによる自動化が進んでいない。部品一つ一つの精度・誤差などを認識・調整しながら組み付けるのは、機械にとって難易度が高いからだ。
WRSでものづくり分野の種目となる「製品組立チャレンジ」では、特に難しい歯車のはめ合わせ作業などが課題になる見通し。参加者はセンサー技術などを用い、人が繊細な感覚を駆使して行う仕事を再現しなければならない。
WRSの競技に多くの技術者が参加することで、「切磋琢磨(せっさたくま)により研究が加速するはず」とNEDOの原大周ロボット・AI部主任研究員は期待する。各課題の解決手段だけでなく、性能評価の手法なども確立する方針だ。
将来的には課題ごとにロボットシステムの標準的な形を策定し、日本発の世界標準として発信したい考え。ロボット新戦略を掲げる政府がWRSに力を注ぐのは、このためだ。
国際競争が激化する中、“ロボット大国”として地位を固める上で、標準の獲得は欠かせない。
人材の発掘・育成が重要に
WRSのもう一つの狙いが人材の発掘・育成だ。4分野の一つ「ジュニア」枠では、20歳未満の学生らによる参加を想定。ソフトバンクの「ペッパー」をプログラミングする知識・技能などが評価対象になる。
優秀な若手人材を集め、大学や企業とのマッチングにつなげることなどが狙い。また、将来のプログラミング教育のあり方を探る上でも、重要な取り組みと言える。
18年10月のプレ大会まで、あと1年と少し。各競技における採点方法の検討や、会場の整備などが急ピッチで進む。前例のない試みだけに試行錯誤が続くが、昨今のロボット人気もあり注目度は高まっている。
国の未来をかけた取り組みとして、大いに盛り上がることを期待したい。
20年の本大会でインフラ・災害対応分野の一部競技で使われる「福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)」。次世代ロボットの開発に寄与する大規模実証拠点として、18年度から順次開所する計画だ。
面積約50万平方メートルの中に、トンネル、橋梁、屋外大型水槽、滑走路などを集約。陸・海・空の多様な実証環境を提供し、各種ロボットの実用化を後押しする。
トンネルのような大型設備のほか、屋内には電波暗室、降雨試験機、防爆試験装置なども配備予定。国際産学官共同施設として、利用を促す方針だ。
政府と福島県は、東日本大震災で被害の大きかった現地をロボット産業の集積地として再生する構え。WRSは先端技術を通じた被災地復興を世界にアピールする上でも、絶好の機会となる。
経済産業省ロボット政策室長インタビュー
経産省はWRSの主催者として運営に携わる。けん引役の安田篤ロボット政策室長に構想を聞いた。
―WRSの意義は。
「ロボットの研究開発と社会実装を加速し、同時に国民の理解も深めることが狙いだ。産業の観点から言えば、特にロボットを活用しきれていない新たなユーザーに最先端の技術を見てもらいたい。開発者とユーザーなど、人材交流のきっかけにもなるはずだ。加えてロボット本体や部品のメーカーにとっては、技術を世界に発信する好機になる」
―種目には社会課題を反映しています。
「ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)内での議論などに基づき、内容が決まった。例えばものづくり分野では、マスカスタマイゼーション(個別大量生産)の時代にどう製品を組み立てるかが大きな課題だ。また、サービス分野では、特にロボットへの期待が大きい家庭と店舗での仕事に焦点を当てている」
―人材育成もテーマです。
「ロボット産業の発展には若手人材の充実が不可欠。ジュニア分野は、参加者が自ら課題を決める『オープンタスク』方式が特徴だ。ロボットがどんな課題を解決し得るかを見つける力が試される。WRSに向け8月5―6日に試験的に開いたジュニア分野の競技会では、学園祭の案内や授業での先生の支援など、さまざまなアイデアが出た」
―運営上の難問は。
「ユーザーなどに効果的に発信するため、うまく“見せる”ことが大切だ。ロボットが順調に動いているか、そうでないかなどを、観客がすぐ分かるようにしないといけない。解説方法などの工夫が必要になる」
(聞き手=藤崎竜介)
日刊工業新聞2017年8月30日