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スタッドレス、早くも熱い戦い

タイヤ各社、新製品で需要開拓
スタッドレス、早くも熱い戦い

ブリヂストンの「ブリザックVRX2」発表会。イメージキャラクターの綾瀬はるかさん(左から2人目)

 8月から9月にかけて、冬道で使われるスタッドレスタイヤが相次ぎ発売される。スタッドレスタイヤの国内出荷量はここ最近伸び悩んでいるが、タイヤメーカー各社はさらなる需要の掘り起こしに力を入れる。技術をふんだんに盛り込んだり、顧客への訴求法を工夫したりして新製品を送り出す。その動向を追った。

 ブリヂストンは乗用車用スタッドレスタイヤの新商品として4年ぶりとなる「ブリザックVRX2」を9月1日に発売する。粒径の小さなシリカの配合と摩擦力向上剤の増加で滑りにくさが高まった「アクティブ発泡ゴム2」を初採用した。ブロックを広くして接地面積を増やし、氷上ブレーキ性能が10%向上した。

 新発泡ゴムの採用と新ブロックは別の特徴も生む。乾いた路面での静粛性だ。ゴム内の気泡が吸音する。地面に当たって音を出すブロックの角が減り、ノイズが減少した。

 7月、スケートリンクで実施したVRX2の試乗会。リンク上で夏タイヤを履いた車と乗り比べると、曲がる際の怖さは少なく、舗装路でもスタッドレス特有の「シャー」という音が気にならない。

 ブリヂストンによると、ブリザックシリーズは北海道・北東北地域での装着率がトップ。同シリーズは首都圏など非降雪地区でも需要を掘り起こそうとしている。

 2016年11月、東京で雪が降ったことは記憶に新しい。「雪はいつ降るか分からない。そんな場合でも安心して車に乗るために、スタッドレスの装着が必要だと訴求する。その際、夏タイヤと同じように使えることが重要だと定義づけ、静粛性を高めた」(原秀男フェロー)。

 今シーズンのスタッドレスタイヤのカタログには、降雪が多くない地域の人向けページを作った。冬道に夏タイヤを使うことの危なさを写真付きで説明する。このようなページを設けたのは初めてだ。

 横浜ゴムもブリヂストンと同じ9月1日に新スタッドレス「アイスガードシックス」を発売する。このタイヤは「ぬれた氷上路面での滑りにくさ」に焦点を当てた。
横浜ゴムの「アイスガードシックス」

 専用パターンと、水を取り込む「バルーン」の部分を均一に分散して効果を高め、バルーン部分の縁が路面をかんで滑りにくくする「プレミアム吸水ゴム」を採用。ぬれた路面での制動性能が従来品比5%上がった。

 横浜ゴムの「アイスガードシックス」は「プレミアム吸水ゴム」を採用して、ぬれた路面での制動性能を高めた「除雪技術の普及や気温上昇などで、北国の氷道でも表面が溶けて水の膜ができることが多い。車走行時のタイヤの摩擦熱でも水膜ができ、これが滑りの原因になる」とタイヤ消費財開発本部長を務める野呂政樹取締役は開発の主眼を話す。

 同シリーズはかつて「乾いた氷は滑らない」という宣伝コピーを採用。バルーンの吸水力を売りとし、技術力向上に取り組んできた。タイヤ企画本部消費財製品企画部の政友毅部長は「機能面で当社スタッドレスの最高傑作だ」と自信を示す。

 東洋ゴム工業は1日に「ウインタートランパスTX」を発売した。スポーツ多目的車(SUV)やミニバンなどの背の高い車両向けで、「車種別専用タイヤ」に位置付ける。

 氷をひっかく鬼クルミや路面に吸い付くゴムにより、氷上での制動性能が従来品比12%上がった。氷上性能のほか、外側からの力による変形を防ぐタイヤ側面での剛性も向上した。

 またタイヤの外側と内側で硬さの違うコンパウンドを採用。内面には経年劣化を抑えるベースゴムを用いて、SUVやミニバン走行時に多いふらつきを抑え、安心・安全なドライブに寄与する。

 住友ゴム工業はスタッドレス新製品を各社より一足早く16年に投入した。それが「ウインターマックスゼロツー」。植物由来資源の材料が、タイヤ内のオイルとポリマーを結合。オイルを抜けにくくし、時間を経てもタイヤが硬くなりにくく、氷上性能が落ちにくい。長持ち性能を特徴とした製品だ。

 各社が今年新製品を出す中、池田育嗣社長は「ウインターマックスを履いているユーザーが、今年も去年と同じような効きを実感してくれると確信している。今年が楽しみだ」と強気。競争激化を「市場活性化につながる。こちらとしても精いっぱい戦いたい」と強調した。
横浜ゴムの「アイスガードシックス」は、ぬれた路面でのブレーキ性能に着目

(文=山田諒)
 
日刊工業新聞2017年8月17日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 日本自動車タイヤ協会によると、16年の冬用タイヤ国内出荷実績は前年比7・8%減の1万5896本と減少。17年の乗用車向け冬用タイヤの需要見通しも、メーカー出荷ベースで同0・2%減の1万6753本とみている。ただ、かつては1割程度だったタイヤ総本数に占める割合は、10年以降2割程度に伸びてきた。イエローハット埼玉本部の原浩二氏によると「スタッドレスの技術が向上し、安価にもなってきた。数日しか雪が降らない地域の人も『この価格ならば買っていい』と購入する人もちらほら出てきた」と認識している。夏も冬も安心して走ってもらうため、各社は熱いスタッドレス商戦を繰り広げる。 (日刊工業新聞第一産業部・山田諒)

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