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「スマホ生産工程のすべてをロボットに置き換える」(中国EMS)

成長がすごい産業用ロボット。日系メーカー、供給体制の整備急ぐ
「スマホ生産工程のすべてをロボットに置き換える」(中国EMS)

安川電機が中国に投入したロボット

 産業用ロボットや関連する部品メーカーが国内外で相次ぎ生産を拡大する。人手不足などを背景に世界で工場の自動化投資が活発化している。中でも中国では主力の自動車産業以外にスマートフォン(スマホ)や電子機器の生産などでロボットの活用が広がり、旺盛な需要が続く。各社は生産の現地化、納期の短縮、能力増強などにより供給体制を整備し、需要の取り込みを図る。

 「すべての生産工程をロボットに置き換えたいと思っている」。スマホのカバーなどを生産する中国の大手EMS(電子機器製造受託サービス)幹部は、ロボットの導入拡大に強い意欲を示す。1万人が働く同社の工場ではこれまでに約3000台のロボットを使い自動化を推進する。同幹部は「導入費用は4―8カ月で回収できた」とし、投資対効果にも満足する。

 またスマホの検査などを手がける別の中国大手EMS幹部も「ロボットの導入で利益率が高まった」とし、今後2年間で生産ラインの自動化を全体の3分の2まで拡大する意向を示す。

 こうした旺盛な需要に対応するためロボット各社は供給体制の整備を急ぐ。安川電機は2018年に中国江蘇省常州市の拠点に第3工場を新設。同国でのロボット生産能力を18年度末までに現状比2・5倍の月1500台に引き上げる。またロボットを制御するコントローラーの生産を日本から常州工場に移管。在庫管理も徹底して納期を約1カ月半短縮する。

 現地のスマホメーカーやEMSは、電子機器の研磨や組み立てに使うロボットを1度に100台超など大量発注する場合が多い。安川電機(中国)の幹部は「即納体制を構築したことで急な発注にも対応できる」と需要の取り込みに自信を示す。

 川崎重工業は17年度に中国江蘇省蘇州市の工場を本格稼働し、前年度比2倍の約8000台のロボット生産を目指す。日本では17年秋に半導体ウエハー搬送用のロボットの生産を明石工場(兵庫県明石市)から西神戸工場(神戸市西区)に移管し、生産能力を月1300台に増強する。

 東芝機械は4月に中国上海市の拠点でロボットの生産を開始。順次本格化する計画で、最終的に部品の現地調達率を5割以上に高めて価格競争力を引き上げる。

 日本では数億円を投じてロボットコントローラーを含めた子会社の生産能力を増強。6月までに一連の投資を始めた15年と比べ2倍の生産体制を整備した。

 ファナックは、約630億円を投じて茨城県筑西市に新工場を建設する。当初の生産能力は月2000台。18年8月をめどに稼働する。新工場は生産能力を月4000台まで増強が可能で、最終的に山梨県の本社工場などを含めて月1万1000台まで拡大する計画だ。

 「17年の中国の産業用ロボットの販売台数は前年比20%以上伸びるだろう」。中国ロボット産業連盟(CRIA)の宋暁剛理事長は17年の見通しについてこう指摘し、同国で初めてロボットの販売台数が年間10万台を超えるとの認識を示す。

 CRIAがまとめた16年の同国ロボット販売台数は同27%増の約8万9000台だった。国際ロボット連盟(IFR)によると16年の世界のロボット販売台数は速報値で同14%増の約29万台。中国が世界需要の約3割を占め、拡大傾向にある。

 みずほ銀行は産業用ロボットのグローバル需要が21年に向け年率12%で拡大すると予想。中でも中国は、21年に15年実績比2・5倍の77億ドルに拡大すると予測する。
(文=西沢亮)

 
日刊工業新聞2017年8月17日の記事から抜粋
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
中国では政府が自国のロボット産業の育成に力を入れており、現地メーカーの台頭が見込まれる。またIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)の活用などによる次世代ロボットの開発も本格化する。需要の拡大とともに競争の激化も予想され、各社の成長戦略が問われることになりそうだ。 (日刊工業新聞第一産業部・西沢亮)

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