METI
ゆるキャラ、バズ動画、工場誘致…間違いだらけの地方活性化
文=日南市マーケティング専門官・田鹿倫基
観光客を増やしてもダメ
「問題」と「課題」の混同と「目的」と「目標」が乖離は、往々にして勘、思い込み、経験、思いつきによる個々の政策がバラバラな状態から起こる。 観光客数を増やすことや、工場の誘致もその代表例。観光客を増やしても、工場を誘致しても地域の活性化になるとは限らない、と言われると意外に思うかもしれない。
活性化の定義をどうするかという論点もあるが、先述した「人口ピラミッドをドラム缶状にする」ことを活性化として考えてみる。
例えば、たびたび人気の温泉地ランキングでもトップ10に入るある温泉地。平日でもたくさんの観光客で賑わう。ではさぞかし地元は活性化しているのだろう、と思って人口動態を見てみると、高校を卒業した若者がどんどん町外に流出し、人口流出率は県内でトップだったりする。
この背景は観光産業が地元経済への波及効果を産んでいないことが要因だ。仮に年間数千万人単位の観光客が来て、温泉を楽しみ、飲み食いをして、宿泊しても、食材は県外産がほとんど、ホテルは東京資本となれば、消費されたお金は地元に還元されにくい。結果としてその他の産業に波及せず、雇用が生まれない。
本当に観光で雇用を作り地方創生につなげるのであれば、観光客数だけでなく、一人あたりの消費単価、域内調達率(顧客に提供された商品・サービスがどれくらい域内で付加価値が付けられているか)の3つの因子を見ることが大事になる。
工場誘致は逆効果も
工場誘致に関しても同じことが言える。 そもそも地域は雇用を作る必要があるのか、製造業は雇用吸収力が高いのか、の2点を考える必要がある。
現在、多くの地方都市は事務職以外の職種はすべて求人数が求職者数を上回っている。つまり、事務職以外の職種は人手不足の状況で雇用をしたいけど、働き手が見つからない、という状況に陥っている。
これは景気がよいからではなく、少子化と若者が流出した結果、生産年齢人口が縮小していることが原因だ。製造業についてはその傾向が顕著で、ただでさえ人手不足に頭を悩ませているのに、そこに工場を誘致したら地場企業の経営をさらに圧迫するだろう。
ゆるキャラやPR動画だけでなく、地域の活性化に直結すると思われてた観光客増加や工場誘致も現在の環境だと逆に地域の重荷になってしまうことがある。
行政の意思決定者は基本的に50歳以上の経験豊富な人が多い。その経験がときには思い込みにかわり、施策に反映される。だからこそ、データや根拠にもとづき、論理的に施策を組み立てることが大切なのだ。