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【新型コロナ】大手が乗り出しにくい「ARDS治療薬」、創薬ベンチャーの開発加速

新型コロナウイルス感染症による肺炎患者が急増し、「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」という疾患に注目が集まっている。肺炎などが原因で肺に水がたまり、重度の呼吸不全を引き起こす疾患で、重篤な場合は命に関わる。いまだ治療法は確立されておらず、新型コロナの死因にもなり得る。ただ、元来患者が少なく、大手企業が治療薬開発に乗り出しにくかった。流行収束が見通せない中で、創薬ベンチャーが開発を加速させている。(取材・門脇花梨)

【治療の一助】

「今回のARDS臨床試験の結果が、患者の命を救う治療の一助になってくれれば」。ヘリオスの鍵本忠尚社長は期待を込める。同社は2018年からARDSを適応症とし、幹細胞製品「HLCM051」の開発を進めている。

ARDSは、肺で炎症性細胞が活性化されて、肺胞や毛細血管に損害を与えることで起きる疾患だ。HLCM051は、静脈に投与すると肺に集積し、過剰炎症を抑制する効果が期待されている。また損傷を受けた組織を保護し、修復を促進することで肺機能を改善する可能性も示唆されているという。

現在、有効性と安全性を検討するため、第2相臨床試験を実施している。新型コロナ感染拡大を受け、この臨床試験に同肺炎が原因のARDS患者を組み入れることを決定した。

欧米では既に、新型コロナ感染症肺炎に伴うARDSに対して、HLCM051が有効である可能性を示唆するデータがあるという。今後、臨床試験が可能な医療機関で新型コロナの肺炎患者がARDSに至った場合、本人の同意を得た上で、HLCM051を注入することになる。

窪田製薬ホールディングスは、抗炎症作用をもつ新規化合物の開発に乗り出す。肺の過剰炎症を抑えられれば、肺胞や毛細血管が傷つくのを抑えることが可能になり、治療につながる。

【過剰炎症防ぐ】

同社は既に白血球の一種「好中球」を集めるたんぱく質「VAP―1」の活性を阻害する化合物を発見している。過剰炎症は菌やウイルスが体内に入ってきた際、白血球が集まりすぎることによって起きる。VAP―1の活性を抑え、好中球の集まりを抑えれば、過剰炎症を防げるという。

【抗炎症剤で利用】

まずはデンマークのレオファーマと共同で、皮膚科領域の抗炎症剤として実用化を目指す。窪田良社長は「呼吸器系の炎症に興味を持ってくれる企業と提携し、ARDSの治療薬としても実用化したい」と意気込む。

治療薬の開発は長期間を要するため、既にある知見を活用した対症療法の開発は急務と言える。ARDSの治療法を早期に確立することは、死者の抑制に重要だ。実際、新型コロナの拡大初期の中国において、感染者の31―41・8%がARDSを発症したというデータもある。機動力の高い創薬ベンチャーが治療薬の開発に注力しており、結果が待たれる。

日刊工業新聞2020年4月24日

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