「羽田」一人勝ち、大競争時代に生き残る空港はどこだ?
東京五輪・パラリンピックを前に3月末、羽田空港の国際線が1日50便増加する。豊富な国内線網に加えて「日本の表玄関」としての機能が強化されることで、利便性の向上や国際競争力アップに期待がかかる。一方、主要路線の多くを羽田に奪われる形の成田空港や、一部を除いて赤字が続く地方空港も、生き残りを懸けた改革を進めている。成田の取り組みとともに、運営委託(コンセッション)方式で国管理空港として初めて民営化した仙台の現状を報告し、空港の未来を探る。
羽田空港の国際線は3月29日以降、昼間(6時―23時)発着分が1日当たり21カ国・地域向けの130便、深夜早朝分も合わせると25カ国・地域向けの約170便となり、日本人がビジネスや観光で訪れる目的地の多くがカバーされる。日本を代表する国際空港に躍り出る格好だ。
対する成田は1978年の開港以来の危機に直面している。これまでも羽田が「再国際化」した2010年、欧州行きなど長距離路線の昼間便に門戸が開かれた14年と、国際線の一部を奪われたが、今回は長らくアジア最大規模を誇った米国便の大勢も羽田発着に移行する。
しかし、希望はある。訪日外国人はなお増加する見通しで、羽田と違って発着容量に余裕があり、格安航空会社(LCC)など羽田枠を獲得できなかった航空会社の便や新興国などとを結ぶ便を新たに受け入れることができるからだ。特に「新たな需要を生み出す」と言われるLCCには期待が集まる。
14年の羽田増便にもかかわらず、15年度以降の成田の利用者数は毎年過去最高を記録している。主な要因は訪日外国人の増加だが、12年夏に成田を拠点とするLCCが登場し、国内線を大幅に増やしたことも大きい。「国際線でも、LCCなら大手未就航の都市と結ぶ便の新設が期待でき、成長著しいアジアなどからの訪日需要を取り込める」と成田国際空港会社の担当者は話す。
内陸空港のため夜間離着陸制限があることはLCCにとって不都合だが、19年10月末、夜間制限は1時間短縮された。20年代後半には3本目の滑走路が完成し、発着容量が現在の1・7倍に増えるとともに、夜間制限もさらに短縮される。
成田空港の田村明比古社長は3月以降について「1、2年は苦しいかもしれないが、きっと回復する」と強調。羽田との差別化を図るため、航空会社や乗客が割安感を持てるように料金体系を見直すなどの課題を挙げつつ、「3―4年後には全く別の空港になっていますよ」と自信を見せた。
16年7月、運営委託(コンセッション)方式で国管理空港として初めて民営化した仙台空港。着実に旅客数を伸ばし、18年度は15年度比16%増の約361万人が利用した。出足の好調さをけん引したのは、LCCなどによる台北線の積極的な開設だった。台湾からの観光客にはリピーターが多く、東京などを訪問済みの人たちが地方を目指す動きを取り込んだ。
先鞭(せんべん)を付けたのは台北が本拠地のLCCタイガーエア台湾。民営化に伴う柔軟な対応を見込み、16年6月に仙台―台北線を開設した。LCC便は他社の客を奪わずに新たな客層を開拓する傾向があり、相乗効果で台湾大手のエバー航空も増便。さらに日系LCCのピーチ・アビエーションも加わり、仙台発着の台北定期便は19年秋現在、民営化前の約10倍の週19便が運航する。
観光に加えビジネスも重視する。19年10月末には、タイ航空が5年半ぶりに仙台便を再開し、座席数300以上の大型機で乗り入れた。空港会社と航空会社が手を組んだ東北企業への営業活動のたまものだ。
狙いを定めたのは山形市に本社を置き、タイに拠点を持つミシン会社。空港会社の担当者がタイ航空のスタッフと共に訪れ、「出張には成田や羽田でなく仙台空港を」と訴えた。その結果、法人契約を獲得し、航空会社が安心して参入できる環境が整った。
「従来の誘致活動は自治体などによる陳情方式だけだった。今回のような手法が取れたのは民営化の結果」と仙台国際空港会社の岡崎克彦航空営業部長は話す。では大半が赤字の地方空港で、出資企業にメリットはあるのか。出資する商社出身の岡崎さんは「経済合理性があるから参画した」と強調した上で、「日本人の航空機利用はまだまだ少ない。訪日客増加で成長が見込める国際線のほか、国内線にも将来性がある」と話す。
路線拡大で狙いを定めるのは、国際線では中国本土、国内線では九州方面など。「民間の知恵」を絞って誘致を進める。