環境規制の強化、ニッポン造船の追い風になるか

トヨタ自動車などが使用する自動車運搬船「オートエコ」

海運業界では2020年1月から硫黄酸化物(SOX)規制が、国際海事機関(IMO)によって全体的に強化される。燃料成分中の硫黄成分排出を規制するもので、19年までは燃料中SOX濃度が3・5%以下だったのが、20年以降は0・5%以下に基準が強化される。新造船はもちろん、既存船を含めた全船舶が対象となる。停滞する造船市況の追い風となるか―。(取材=編集委員・嶋田歩) 新規制をクリアする方法は三つ。第1は従来のC重油を低硫黄燃料油に代替すること。ただ低硫黄燃料油は石油元売り会社から具体的な値上げ幅が示されていない。第2は脱硫装置の排ガス浄化装置(スクラバー)を取り付けることだが、大型装置のため取り付けスペースを船体のどこにするかの問題がある。第3の方法は重油燃料をSOXがほとんど出ない液化天然ガス(LNG)に代替することだ。 造船業界にとってはLNG燃料船の新造が、売り上げ面や収益面から見てプラスに働くのは言うまでもない。LNG燃料にすることで、SOXだけでなく窒素酸化物(NOX)や二酸化炭素(CO2)排出量も削減できる。IMOはCO2排出規制も船の建造契約日などに応じて段階的に強化する方針で、LNG燃料船は有力な手段だ。 LNG燃料船の建造に積極的なのが、川崎重工業だ。16年11月にノルウェー企業へ自動車運搬船「オートエナジー」を引き渡した。船は中国合弁会社の南通中遠川崎船舶工程(NACKS、江蘇省南通市)で建造した。 主機関と発電機機関に二元燃料エンジン「ME―GIエンジン」を搭載。舶用燃料で重油に加え、クリーンエネルギーのLNGが使用できる。LNG使用時は重油焚(だ)き主機関に比べて排ガス中のCO2を23%、NOXは13%、SOXは92%、粒子状物質(PM)は37%それぞれ削減できるという。 LNG燃料船導入に積極的なのが、環境保護意識の高い欧州だ。フェリーや自動車運搬船を中心に、導入が進む。LNGを燃料とする主機関は拡散燃焼方式で低速2サイクルの「ME―GI」、希薄予混合燃焼方式で低速2サイクルの「X―DF」、希薄予混合燃焼方式で中速4サイクルの「DFD」の3種がある。 LNG燃料船の設計課題では主機関の推進方式をME―GIとX―DF、DFDのどれにするのか、LNG燃料タンクの容量や設計圧力、材質をどうするかなどの問題が挙げられる。 LNG燃料タンク容量を大きくすれば船としての航続距離は伸びるが、タンクが設置場所を取るため、コンテナ船などはコンテナをその分、積載できない悩みが生じる。自動車運搬船も同様で、燃料タンクは車の積載台数に影響を与えないように船体下部に設置するケースが多い。 タンカーは前方視界をタンクがさえぎる問題がある。バラ積み船は中央のハッチを開けて鉱石や穀物を投入するため作業の邪魔にならない場所に燃料タンクを置く必要がある。 燃料タンクが高圧タンクだと安全性の問題があるため、小型タイプの設置が有効。またタンクは燃料のLNGを内部のポンプで送り出すため残液に一定の液面高さが必要で、燃料を完全に使い切ることは不可能。燃料使用率を極力100%に近づけるため、タンクの形状やポンプの位置をどう設計するかもポイントだ。 今治造船(愛媛県今治市)はケープサイズバルカーのLNG燃料船で、日本海事協会から設計基本承認(AiP)を取得した。川崎汽船から、LNG燃料の自動車運搬船も受注済みで、20年秋の完成予定。総トン数は7万3800トン、船籍は日本で引き続き受注拡大を目指す。 三菱造船(横浜市西区)は、舶用二元燃料主機向けのLNG燃料供給システム「FGSS」の初号機を、新来島豊橋造船(愛知県豊橋市)へ納入した。日本国内の建造で初となる、LNG燃料の自動車運搬船に搭載される。FGSSの搭載で、重油焚き船に比べSOXは約99%、NOXは86%の削減効果が期待できるという。エネルギー効率も約4割改善できる。 三菱造船はFGSS納入以外に、船舶のLNG燃料化に伴うガスハンドリング周辺設備の設計も手がけ、造船所をサポートする方針だ。 LNG船以外で環境対応を模索する動きもある。大島造船所(長崎県西海市)は、商船三井や東京大学などと組み「ウインドチャレンジャー計画」に取り組んでいる。バラ積み船やタンカーの甲板に帆船のような帆を取り付け、風の強さや向きによって開閉を調節して燃料消費量の削減につなげるというもの。 川崎重工業はLNG船後の次世代船として、液化水素運搬船の開発に注力する。CO2を出さない水素をマイナス253度Cの極低温で液化して体積を800分の1に圧縮、船で運ぶ。高性能のステンレス製真空断熱二重殻でLNGと同等の長期貯蔵性を実現。パイロット船のタンク容量は1250立方メートルで、商用化する時点では4万立方メートル級に向上させる予定。ローディングシステムや陸上輸送のコンテナなど、周辺装置も他社と共同で開発を進めている。

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