「島根の魅力を5分で50個出せ」想像以上に理不尽なパワハラ体験会

そんな言葉が飛び交うのは、学習塾の運営などを手がけるWITS(千葉県柏市)とコンテンツ制作のNextarium(東京都渋谷区)が11月21日に東京都・秋葉原で開催した「パワハラ体験会」での一コマ。 パワーハラスメント(パワハラ)は折に触れて問題視される一方で、何がハラスメントに該当するのかの明確な基準がないことも課題だ。このイベントで参加者は、完全なパワハラや、パワハラかどうかのぎりぎりラインを色々なゲームで体験することで、パワハラの境界線や対処法を学んだ。各ゲームの後には社労士による解説が行われた。 参加者は、パワー証券の新入社員として新人研修を受けるという設定で、いくつかのパワハラゲームを体験した。パワー証券の特徴は、超体育会系、パワハラが横行、離職率100%。当然、新入社員は研修を通じて様々なパワハラを受ける。各ゲームで設定された条件をクリアできないと「クビポイント」がたまる。クビポイントがもっとも多い人が優勝で、優勝者にはパワハラから身を守るための景品が与えられる。 まず、新入社員は一人ずつ立ち研修の抱負を述べるのだが、 部長「小さい声だったらどうしましょうか?」 社長「クビかな?笑」 と、社長らは抱負の内容とは関係のない、声の大きさを要求した。部長はスマホアプリで声の大きさを測り始めた。声が小さい3人にクビポイントが付く。 新入社員A「岡本昌大です!」 社長「聞こえない」 新入社員A「岡本昌大ですっ!」 社長「聞こえない」 部長「89dBですね」 新入社員B「江夏ともみです。えーと・・・」 社長「えーとじゃないんだよ、えーとじゃ。『えーと』が目標か!」 部長「83dBですね」 その後も社長は、「なんでそんなにガリガリなんだよ」「臭いんだよ君は」「どうしたんだその二重あごは」と、大声で目標を発する新入社員に次々に罵詈雑言をあびせた。部長は新入社員全員の声量を測った。 社長らの行為は「精神的パワハラ」に該当するという。社労士の鈴木道由さんが解説した。 精神的なパワハラとは、言葉や行動で精神的に追い詰める行為。「暴言はもちろん、外見や性格についてその人の評判を落とすようなひどい言葉を浴びせたり、その人限定で無視をするなどの行為もパワハラに該当する」(同氏)という。 精神的なパワハラは一回では終わらない特徴がある。ボイスレコーダーなどで録音したり、日時や内容をノートに記録するなど事実の蓄積が対処法として有効だ。 「ただし、一見罵倒に聞こえるようだけど、業務に起因するものはパワハラには当たらないケースがある。例えば、接客業における『笑顔を大事にしろ』などはセーフ」(同氏)なのだそうだ。 次はグループワーク研修。5分間で都道府県の魅力を50個リストアップするというもの。2、3人のグループに分かれ、それぞれ「島根」「群馬」「埼玉」が振り分けられた。なんとか50個書き出せたからといって目標達成とは限らない。なぜなら魅力的かどうかは部長の独断と偏見で決定されるのだ。当然、50個に届かなかったらクビポイントが与えられる。 部長の判断基準はかなりあやふやだった。例えば、「お米がおいしい」は不合格だが、「水がおいしい」は合格だった。「広い」という言葉が合格したりもした。さらにはグループ発表者が何かを言う前からベルが鳴っているが場合があった。全グループ、目標の50個に遠く及ばず、クビポイントが与えられた。 過大要求パワハラとは、“業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害行為”と定義されている。仕事と関係のない要求や無理難題を押し付ける行為はパワハラとみなされる。過大かどうかの判断ポイントとしては、「部下育成のために普段より少しレベルの高い業務を任せることはパワハラではないと判断されることが多い。『達成できそうでできない』はセーフ、『絶対無理』はアウト」(同氏)。 また、今回のゲームは目的が達成できるかどうかは部長のあやふやな感覚にかかっているが、「これでは単に目標を達成することが難しいだけでなく、どうすれば達成できるかも分からないため、過大要求パワハラに該当する」(同氏)という。 ゲームの合間には「ディスカッションタイム」が設けられ、職場でありがちなシーンを取り上げ、パワハラに該当するものとしないものを議論した。 できない部下を叱るフレーズには、「お前何年この仕事やっているんだ」「こんなこともできないのか」などがあるだろう。どういう意味の言葉を使うかで、パワハラかそうでないか分かれる。 そのポイントは業務に関係しているか、していないかだ。「(チンパンジーの)パン君でもできるぞ」「お前幼稚園児か」「馬鹿」といった発言は「個への侵害」というパワハラに該当する。一方、「お前この仕事何年やってるんだよ」というのはパワハラに当たらないという。 微妙なのは、「お前何年目だ」。全く畑違いの仕事に異動したばかりの人にこれを言った場合はパワハラに当たるのだという。 毎日毎日、「お前のためを思ってアドバイスしてやる」という感じで継続的に説教するのはパワハラに当たる。また、一回の説教が長時間なのも良くない。「継続性」や「長時間」がパワハラに該当する大きな要素だ。妙な話だが、中一日だと「継続的」と判断されるのだという。頻度は週一回が目安で、時間は一回15分以内だと長時間とはされにくいのだそうだ。 また、飲み会への誘い方に関してはどういったものがパワハラに該当する可能性が高いかというと、例えば、「誘いを断っているのに勤務時間外に執拗に誘い続ける」「みんなが行くのに1人だけもしくは特定の集団を誘わない」などだ。「飲み会の誘いに関してのパワハラかどうかのボーダーラインは難しいが、『双方が合意しているかどうか』がポイントだ」(同氏)という。飲み会に参加しなかったことの報復として嫌がらせや配置転換するなどもパワハラに該当する。 ゲームが再開した。次は「五季報かわし」という身体的なパワハラに関するゲームだ。 昔の証券会社などでは四季報が飛んでくるということがあったそうだ。四季報は分厚く重いため、当たり所によっては大きな怪我につながる。そこで、四季報をかわす実践的訓練を「五季報」を使って実施した。 ものを投げつけるといったような行為は、「そもそも暴力にあたる」(同氏)という。体に触れた時点で暴力に該当するという。また、それ以前に相手を威圧・威嚇する行為もパワハラに該当する可能性があるという。 パワハラには5つ種類がある。「精神的パワハラ」「身体的パワハラ」「個への介入によるパワハラ」「人間関係の切り離しによるパワハラ」「過大と過小のパワハラ」だ。参加者は、ゲームやディスカッションを通じ、それぞれのパワハラの境界線を学んだ。 社労士の鈴木道由さんは「パワハラは法的な整備がされていない。まだまだこれから」と指摘しつつも、参加者たちからは「そういえばあれはパワハラやってたのかなあ」「今度の研修のやり方は要注意だね」などの声が上がっており、過去の反省や今後の対策に活かせそうだ。(取材・)

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