日本初の液体ミルク、グリコが「白さ」に徹底的にこだわったワケ

【連載】「液体ミルク」が変えるもの #2

「アイクレオ 赤ちゃんミルク」

 2018年8月に厚労省の省令改正を皮切りに国内での生産販売が可能になった液体ミルク。国内では2019年3月に江崎グリコと明治が発売している。発売から約半年が経過し、当初計画の2倍以上を出荷するなどの好調が続いている。しかし液体ミルクの販売までには従来の粉ミルクを「液体にしただけ」とは違う苦労があったという。開発から発売、その後の展開までを、現在液体ミルクを販売している江崎グリコ、明治に聞いた。  江崎グリコは日本で初めて液体ミルク「アイクレオ 赤ちゃんミルク」を発売した。マーケティング本部の水越由利子氏に話を伺った。 ―開発をスタートしたのはいつからですか?  2016年4月に発生した熊本地震がきっかけです。海外から液体ミルクが届けられたという記事を見たとき、「日本製の液体ミルクがあれば安心して子育てができるようになるね」と話したことがきっかけです。もともと社内に乳飲料の製造知識と乳幼児の栄養に関する知識があったので、これがうまく融合できたことが大きかったと思います。 ―ノウハウを持っていたことで開発もスムーズに進んだのでしょうか。  とはいえ、開発は難しいだろうと考えられていました。販売までに3年、開発には2年半かかりました。省令がなかったので、どういった内容にすべきか悩みました。粉ミルクを基準に考えてはいましたが、液体の方が保存期間中に成分がゆるやかに変わっていきやすいという特徴があります。その中でも赤ちゃんに必要な栄養をきちんと担保する、というのを見定めるのが難しかった部分です。テストの結果が出る前に成分変化の予測を立てながら開発を進めていきました。 ―一番こだわったポイントは。  色の白さです。海外の製品は灰色っぽい色をしているものが多く、「日本のお父さんお母さんが安心してミルクをあげられるだろうか」と考えた時に、やっぱり白いものがよいだろうという結論になりました。「白さ」へのこだわりは紙パックで製造することにつながっています。 紙パックの製造工程では、超高温・短時間で殺菌するという製法を取っており、これがミルクの白さにつながっています。高温で長時間殺菌するとミルクの色が変化してしまうのです。 ―粉ミルクと液体ミルクで使われている成分は異なりますか。  基本的に一緒です。弊社では母乳を目指した設計にしているので必然的に同じになっています。ミルクで育児をされている方から「母乳が出ないことへの罪悪感」という話をよく聞きます。必要以上に自分を追い詰めないでほしいと思いますし、粉ミルクが母乳に近いものであればそういった方々の不安を少しでも払拭できるのではと考えています。 また粉ミルクよりも液体ミルクの方がサラリとしていて飲みやすい、という声も聞いています。 ―お母さんたちに液体ミルクの存在や使い方などを周知するための活動はどのように行いましたか。  弊社としては液体ミルクの存在を世間に広める活動を早い段階から行ってきたと思っています。発売時に体験会を実施し、また栄養士の資格を持った「アドバイザー」が全国に300人ほどおり、育児用品販売店などで栄養相談を行っています。使い方だけでなく、お母さんたちが一人で抱えがちな“授乳”というものをどうシェアするかといったお話もしています。特に液体ミルクはお父さんだけでなく祖父母も育児に参加しやすくなると言われています。  液体ミルクは子育てを変えるものだと思っています。授乳をお母さん一人に背負わせない、いろんな人が授乳することで赤ちゃんにいろんな人が愛情を注いでもらえるようにしたい。日本の子育ての幸福度を上げたいというのが最終的な目標であり、液体ミルクはその一助になると考えています。 ―授乳までの工程も時間も粉ミルクよりはるかに短縮できます。  約10秒でパックから哺乳瓶に移し替えてすぐあげられるので、泣いている赤ちゃんを待たせずに済みます。粉ミルクだと調乳に約10分かかります。生まれてから数カ月はミルクの時間が1日にだいたい8回。液体ミルクであれば1日に80分近く短縮できます。それだけあればお母さんの寝る時間や、遊びや散歩の時間が確保できます。精神的、身体的な負担が軽減できるんです。 また、粉ミルクを使っているお母さんたちから聞くのは、荷物が多く外出が億劫になることや、出先での調乳が負担という声です。出かける際には哺乳瓶、お湯と湯冷ましそれぞれを入れた水筒、粉ミルクのセットが必要ですが、液体ミルクであれば、紙パックと哺乳瓶だけで済みます。さらに紙パックなら軽いし畳んで捨てやすいんですよね。  災害担当の方にも紙パックは好評でした。避難所で問題になるのがごみ捨ての問題。その際にかさばらない紙パックは良いとのことでした。 ―日常・非常時両方で使いやすいというのは大きな利点ですね。  防災でポイントとなってくるのが、「ローリングストック」をどう生活に取り入れるかだと思います。日常で使いやすいものが災害時にも役立ちます。非常時にいきなり液体ミルクをあげて赤ちゃんが飲まない可能性もありますので、普段から少しずつ練習しておくのも大事です。「災害食大賞2019」の新製品・セット部門にて金賞を受賞したのですが、その時評価されたのが「普段から使える」という点でした。液体ミルクはいざという時の“お守り”であり、普段からも活用してほしいと思っています。   ―災害時備蓄用として自治体からの問い合わせも増えていると思います。  問い合わせも多く、実際にいくつかの自治体には備蓄していただいています。ただ自治体によっても温度差があり、あまり導入が進んでいないと感じています。熊本地震で被災した方に、当時生後4カ月の子が泣いてしまい周りに迷惑をかけることや、子供をケアする環境が避難所に整っていなかったことから10日間車中泊をしたというお話を伺いました。妊産婦さんや赤ちゃんは災害弱者になりやすいんです。導入している自治体も、もっと公表していただいたら良いのでは、と思うのですが。 ―消費者から改善してほしい部分などの声はあがっていますか。  現在薬局や一部の売店などでは売られていますが、コンビニで販売してほしいという声が上がっています。今後販売拠点は増やしていく予定です。  また容器に関してもそのまま赤ちゃんにミルクをあげられるようにしてほしい、という声も多くいただいています。ただ海外で販売されているものに関しても哺乳瓶への移し替えが基本で、乳首付き容器はわずか3%だそうです。まずは紙パックで、「開封後すぐに赤ちゃんにあげる」などの正しい使い方が浸透・定着してほしいと思っています。 【03】(9月18日配信) 【04】(9月19日配信)

続きを読む

関連する記事はこちら

特集