ANAとJAL、国際線の輸送力拡大へ。五輪見据え水面下で駆け引き
1日当たり100便を増便、“ドル箱路線”へ期待
ANAホールディングス(HD)と日本航空(JAL)が策定した2021年3月期までの中期経営計画は、アジアにおける航空需要伸長や格安航空会社(LCC)の台頭を背景に、ともに国際線の輸送力拡大を成長の核に据えた。旅客輸送力の指標である有効座席キロメートル(ASK、座席数×飛行距離)は17年3月期に比べて、ANAHDが約3割、JALが約2割、それぞれ増を目指す。3月末で国によるJAL再建後の経営監視期間が終了し、2大航空会社の競争は新たなステージに入る。
ANAHDは16年1月に策定した5カ年中計を改訂。同社の芝田浩二上席執行役員は「20年までに国際線の売り上げが国内線を上回る」との見通しで、大型機を就航させるリゾート路線に期待を寄せた。一方、4カ年中計をまとめたJALの植木義晴社長は「東南アジアと北米の乗り継ぎ需要が最も伸びる」とし、ネットワーク拡大に意欲を示した。
ANAHD、JALともにターニングポイントとするのは東京五輪・パラリンピックが開かれる20年。首都圏空港の機能を強化する一環で、羽田および成田空港で発着枠拡大が見込まれる。
成田は管制など空港機能の強化に加えて夜間早朝の発着時間拡大、羽田は都心方面の飛行ルート新設で、いずれも地元説明や交渉が始まったところ。順調ならば両空港合わせて、1日当たり100便を増便できるようになる。
就航先に一部条件がついたとしても“ドル箱路線”が期待できるとあり、発着枠獲得に向けた水面下の駆け引きが始まっている。ANAHDは14年と16年の羽田国際線発着枠追加で公正競争を理由に、JALよりも計8枠多く配分を得たが、次回も同様とは限らない。
公的資金で再建したJALは、12年に国土交通省から出された指針の通称「8・10ペーパー」によって、前中計終了時まで路線開設などを制限する事実上、国の経営監視下にあった。
フリーハンドを得て初めての中計だが、「いたずらに規模を追わず、市場成長に合わせる」(JALの西尾忠男常務執行役員)と、従来の利益重視を継承する保守的な内容となった。
JALは会社更生法適用で、財産評定の見直しと長期の法人税減免などにより収益改善効果が得られた。大規模なリストラや賃金、経費抑制といった改革の成果も大きく、利益剰余金の創出力はANAHDをしのぐ。
潤沢な手元資金の存在は、競合のANAHDにとって脅威だ。JALが成長に向けて再投資する先は、機内の無線LAN整備や空港ラウンジの刷新など。17年までに成長基盤を確立したい考え。植木JAL社長は「さまざまな先行支出を集中させる」とし、基幹システム入れ替えや人材への投資を進める。
ANAHDはJALに負けじと、コスト最適化で収益力を改善させてきた。だが、“ゼロからの出発”で固定資産や有利子負債が軽くなったJALとの収益力の差は大きい。しかし、国際線・国内線ともにトップシェアとなり、嘆いてばかりもいられない。大きな戦略の違いは、LCC戦略に現れているようだ。
ANAHDは3月、国内LCC大手ピーチ・アビエーションの子会社化を発表した。独自性を尊重しながらも、LCC子会社バニラエアとの連携など相乗効果を狙う。中計にもLCCのASKを17年度比2・2倍とする見通しを盛り込んだ。
さらに「中距離LCC市場にも進出を検討する」(ANAHDの芝田上席執行役員)と説明。LCCに全日本空輸(ANA)のネットワークや顧客を補完する役割を担わせる可能性も示唆した。
(文=小林広幸)
ANAHDは16年1月に策定した5カ年中計を改訂。同社の芝田浩二上席執行役員は「20年までに国際線の売り上げが国内線を上回る」との見通しで、大型機を就航させるリゾート路線に期待を寄せた。一方、4カ年中計をまとめたJALの植木義晴社長は「東南アジアと北米の乗り継ぎ需要が最も伸びる」とし、ネットワーク拡大に意欲を示した。
ANAHD、JALともにターニングポイントとするのは東京五輪・パラリンピックが開かれる20年。首都圏空港の機能を強化する一環で、羽田および成田空港で発着枠拡大が見込まれる。
成田は管制など空港機能の強化に加えて夜間早朝の発着時間拡大、羽田は都心方面の飛行ルート新設で、いずれも地元説明や交渉が始まったところ。順調ならば両空港合わせて、1日当たり100便を増便できるようになる。
就航先に一部条件がついたとしても“ドル箱路線”が期待できるとあり、発着枠獲得に向けた水面下の駆け引きが始まっている。ANAHDは14年と16年の羽田国際線発着枠追加で公正競争を理由に、JALよりも計8枠多く配分を得たが、次回も同様とは限らない。
公的資金で再建したJALは、12年に国土交通省から出された指針の通称「8・10ペーパー」によって、前中計終了時まで路線開設などを制限する事実上、国の経営監視下にあった。
フリーハンドを得て初めての中計だが、「いたずらに規模を追わず、市場成長に合わせる」(JALの西尾忠男常務執行役員)と、従来の利益重視を継承する保守的な内容となった。
JALは会社更生法適用で、財産評定の見直しと長期の法人税減免などにより収益改善効果が得られた。大規模なリストラや賃金、経費抑制といった改革の成果も大きく、利益剰余金の創出力はANAHDをしのぐ。
潤沢な手元資金の存在は、競合のANAHDにとって脅威だ。JALが成長に向けて再投資する先は、機内の無線LAN整備や空港ラウンジの刷新など。17年までに成長基盤を確立したい考え。植木JAL社長は「さまざまな先行支出を集中させる」とし、基幹システム入れ替えや人材への投資を進める。
ANAHDはJALに負けじと、コスト最適化で収益力を改善させてきた。だが、“ゼロからの出発”で固定資産や有利子負債が軽くなったJALとの収益力の差は大きい。しかし、国際線・国内線ともにトップシェアとなり、嘆いてばかりもいられない。大きな戦略の違いは、LCC戦略に現れているようだ。
ANAHDは3月、国内LCC大手ピーチ・アビエーションの子会社化を発表した。独自性を尊重しながらも、LCC子会社バニラエアとの連携など相乗効果を狙う。中計にもLCCのASKを17年度比2・2倍とする見通しを盛り込んだ。
さらに「中距離LCC市場にも進出を検討する」(ANAHDの芝田上席執行役員)と説明。LCCに全日本空輸(ANA)のネットワークや顧客を補完する役割を担わせる可能性も示唆した。
(文=小林広幸)
日刊工業新聞2017年5月10日