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羽田空港の米国向け発着枠。数ではなく運用に課題残す

JAL、今のままではニューヨークに就航できない
 懸案となっていた羽田空港の米国向け発着枠の配分が決まった。日本側の配分は全日本空輸(ANA)4便、日本航空(JAL)2便となり、13年の昼間時間帯増枠に続き、2回目の傾斜配分となった。ANAは羽田の利便性を最大限に生かし、10月末からニューヨークやシカゴ向けの路線を開設。一方、JALは公的支援で再生したことで新規路線の開設を制限されており、既存路線を昼間に移すことになる。

米デルタの抵抗


 羽田の米国路線の発着枠は、米デルタ航空の強い抵抗で航空交渉が膠着(こうちゃく)し、2年以上棚上げ状態となっていた。日本に有力なパートナーがいないデルタは、成田を中心にネットワークを強化しており、羽田の国際化進展による競争力低下への懸念が強かったためだ。

 2月に妥結した日米航空交渉では、昼間に1日10枠の発着枠を新設し、深夜早朝は8枠から2枠に減らすことで合意。深夜早朝の発着枠は空いているものの、デルタの意向もあり、純増とはいかなかった。

 12枠の発着枠は日米の航空会社に6枠ずつ配分。既存の深夜早朝の4枠を昼間に移し、深夜早朝と昼間にそれぞれ1枠ずつ新設し、新設分をすべてANAに配分し、JALとの差をつけた。

 米国路線は時差の関係で、深夜早朝に東海岸や中部向けの路線を就航することが難しい。このため現在は、ロサンゼルスやホノルルなど、西海岸向けの路線に限定されている。ANAは配分の公表を受け、早々にニューヨーク線やシカゴ線を就航する意向を示している。

通称「8・10ペーパー」の存在


 一方、JALの路線開設について、石井啓一国土交通相は「慎重に判断する」と述べた。JALの事業を監視する指針となっている、通称「8・10ペーパー」では、過去に就航したことがない新規路線は開設できないとしている。これに照らすと、JALは羽田から東海岸の路線は就航できず、既存のサンフランシスコ線とホノルル線を昼間に移すしかない。

 各国との航空交渉の末に獲得する交通インフラである発着枠は「国民の財産」とも言われる。都心に近く、ビジネス需要が高い羽田で昼間に米国路線を発着するメリットは、ニューヨークなど東海岸に就航できること。今のままでは苦労して確保した発着枠を、最大限に生かしているとは言えないだろう。

 航空会社間の綱引きや、監督官庁の理屈で利用者にしわ寄せが行くのであれば、誰のための発着枠なのか分からなくなってしまう。羽田の発着枠はこれまで、配分の数が注目されてきたが、今回はその運用にも議論の余地を残していると言えそうだ。
(文=高屋優理)
日刊工業新聞2016年5月10日
高屋優理
高屋優理 Takaya Yuri 編集局第二産業部 記者
羽田の国際線が増えれば、必ず便利になるはずなのですが、利益が大きいだけに利害が絡んで、いつも揉めます。それぞれの立場や見方でがあるのは仕方ないにしても、利用者の目線だけは置き去りにならないといいなと思います。

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