地域ならではの体験や魅力作り。「施設の成熟には5年かかる」(星野リゾート社長)
大阪に新型観光ホテル、22年春開業へ 。
星野リゾートは大阪市浪速区のJR大阪環状線・新今宮駅前に、同社既存リゾートホテルとは異なる新スタイルの都市観光ホテルを開業する。都市観光客を対象に2022年春の開業を目指す。
大阪市内で会見した星野佳路社長は「ビジネス需要でなく観光客に特化する」と強調。大阪の風情が色濃い新世界近隣の開業について「新大阪駅や関西国際空港、観光地への利便性が高い。大阪でしか体験できない地域文化を感じるロケーションを重視した」と述べた。
同ホテルは通天閣や新世界などが徒歩圏内。敷地面積1万3909平方メートル。客室は608室を予定している。
日本を代表するリゾートホテルチェーンとなった星野リゾート。星野佳路社長は今、何を見て、経営をしているのか。戦略に迫った。
―施設の急拡大が続いていますが、星野リゾートの最大の強みは。
「土地や建物を所有せず、運営を専門にしていることと、一人のスタッフがフロントやレストラン、客室など、さまざまな仕事をこなし、時間当たりの生産性が高いこと。日本はオークラもオータニも不動産を所有しているので、ベンチマークしているのは、ハイアット、マリオット、リッツカールトンなど、不動産を持たずに運営のノウハウだけで成功している外資だ。マルチタスクはトヨタ自動車の『多能工』を手本にしている」
「ホテル業界の最大の問題は、朝と夜に仕事が集中し、昼間は手待ち時間となる『中抜けシフト』。スタッフがホテルの中のすべての技能を身につけ、多能工化すれば、連続して働けるので、中抜けシフトをなくすことができる。スタッフの生産性を上げることで収益率を高め、一人ひとりのスキルの幅が上がれば、人材育成の面でもプラスになる。これをホテル業界できちんと実践すれば、非常に効果が大きい」
―運営面での強みは。
「星野リゾートの各施設では、その地域ならではの体験を作りだし、魅力を感じてもらうことがコンセプトになっている。そのためには、その施設のコンセプトを決め、マーケティングをして、必要な投資しながら、スタッフの組織が強くなっていき、浸透させるというプロセスが非常に大事で、それには3~5年かかる。施設が成熟するには5年必要ということだ」
「例えば、高知県のウトコ オーベルジュ&スパは運営始めて3年が経過し、パターンが見えて良くなってきている。4月から始まったばかりの京都のロテルド比叡は、まだまだこれからだ。訪日外国人が増えているとか、市場環境よりも、各施設の運営プロセスやスタッフが揃い、組織がどこまで強くなったか、コンセプトが明確になって共有できているかが、業績に影響する。ホテルの稼働率では、東京、大阪と地方の差が大きくなっている。しかし、青森の青森屋やトマム、沖縄の竹富島は絶好調だ。市場環境で言えば、青森などは、周囲の宿泊施設は大変そうだ。自ら魅力を出さずにマーケットが伸びるという状態ではない。企業努力は絶対に必要だ」
―訪日外国人が増えていますが、それはあまり重視していないのでしょうか。
「大事なのは外国人がどれだけ増えても、宿泊客の大半は日本人であるということ。国内リゾートの宿命だ。サービスは日本人に支持されることが大事で、日本人が支持することで、外国人も本物だと思ってくれる。訪日外国人を増やすことは大事だが、それがマーケティングの中心になってはいけない。大切なのは、日本人の満足度を高い水準で維持すること。その結果として訪日外国人が伸びるのであれば、良いという考え方だ」
「バブル崩壊の頃からリゾートを手がけているので、外部の経済環境にはあまり左右されないようにしている。日本の国内観光市場は、年間20数兆円と大きな規模で安定している。顧客にしっかりと地域の魅力を感じてもらい、売り上げさえ安定させれば、収益は運営の生産性を高めることで拡大できる。日本の観光産業は、需要ではなく、運営や生産性に問題がある。上がってきた売り上げからしっかりと利益を出す、そこに私たちのノウハウがある」
―バリやタヒチなど海外への進出も決定していますが、海外事業も含めた、今後の事業拡大の方向性は。
「目標は持たないようにしているが、運営してくれという施設があれば、全部運営したい。星野リゾートの運営ノウハウが広まりつつあり、持ち込まれる案件は増えている。その中から自分たちに合ったものを選んで、増やしていきたい。基準は、短期的な利益でなく、中長期的な競争力を大事にしてくれるオーナー、投資家であること。一時的に利益が回復しても、その後の設備投資に資金が回らないと、施設が強くなる循環が生まれない。中長期的な競争力強化に合意してくれることが大事になる」
「星野リゾートの得意分野はマルチタスクであり、生産性の高い運営方法だ。そうである限りは、地球上どこへ行っても同じロジックだと思っている。集客はその地域の事情に合わせて、競合よりちょっとよくすれば良いのであって、我々に共感してくれるオーナーがいれば、場所はアフリカでもアイルランドでも、地球上どこでも行きたい。今は中国や台湾で話があり、企画開発などをしているところ。中国、台湾は実現性がありそうだ」
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大阪市内で会見した星野佳路社長は「ビジネス需要でなく観光客に特化する」と強調。大阪の風情が色濃い新世界近隣の開業について「新大阪駅や関西国際空港、観光地への利便性が高い。大阪でしか体験できない地域文化を感じるロケーションを重視した」と述べた。
同ホテルは通天閣や新世界などが徒歩圏内。敷地面積1万3909平方メートル。客室は608室を予定している。
日刊工業新聞2017年04月25日
社長・星野佳路が語る「成功の条件」
日本を代表するリゾートホテルチェーンとなった星野リゾート。星野佳路社長は今、何を見て、経営をしているのか。戦略に迫った。
―施設の急拡大が続いていますが、星野リゾートの最大の強みは。
「土地や建物を所有せず、運営を専門にしていることと、一人のスタッフがフロントやレストラン、客室など、さまざまな仕事をこなし、時間当たりの生産性が高いこと。日本はオークラもオータニも不動産を所有しているので、ベンチマークしているのは、ハイアット、マリオット、リッツカールトンなど、不動産を持たずに運営のノウハウだけで成功している外資だ。マルチタスクはトヨタ自動車の『多能工』を手本にしている」
「ホテル業界の最大の問題は、朝と夜に仕事が集中し、昼間は手待ち時間となる『中抜けシフト』。スタッフがホテルの中のすべての技能を身につけ、多能工化すれば、連続して働けるので、中抜けシフトをなくすことができる。スタッフの生産性を上げることで収益率を高め、一人ひとりのスキルの幅が上がれば、人材育成の面でもプラスになる。これをホテル業界できちんと実践すれば、非常に効果が大きい」
―運営面での強みは。
「星野リゾートの各施設では、その地域ならではの体験を作りだし、魅力を感じてもらうことがコンセプトになっている。そのためには、その施設のコンセプトを決め、マーケティングをして、必要な投資しながら、スタッフの組織が強くなっていき、浸透させるというプロセスが非常に大事で、それには3~5年かかる。施設が成熟するには5年必要ということだ」
「例えば、高知県のウトコ オーベルジュ&スパは運営始めて3年が経過し、パターンが見えて良くなってきている。4月から始まったばかりの京都のロテルド比叡は、まだまだこれからだ。訪日外国人が増えているとか、市場環境よりも、各施設の運営プロセスやスタッフが揃い、組織がどこまで強くなったか、コンセプトが明確になって共有できているかが、業績に影響する。ホテルの稼働率では、東京、大阪と地方の差が大きくなっている。しかし、青森の青森屋やトマム、沖縄の竹富島は絶好調だ。市場環境で言えば、青森などは、周囲の宿泊施設は大変そうだ。自ら魅力を出さずにマーケットが伸びるという状態ではない。企業努力は絶対に必要だ」
まず日本人に支持されること
―訪日外国人が増えていますが、それはあまり重視していないのでしょうか。
「大事なのは外国人がどれだけ増えても、宿泊客の大半は日本人であるということ。国内リゾートの宿命だ。サービスは日本人に支持されることが大事で、日本人が支持することで、外国人も本物だと思ってくれる。訪日外国人を増やすことは大事だが、それがマーケティングの中心になってはいけない。大切なのは、日本人の満足度を高い水準で維持すること。その結果として訪日外国人が伸びるのであれば、良いという考え方だ」
「バブル崩壊の頃からリゾートを手がけているので、外部の経済環境にはあまり左右されないようにしている。日本の国内観光市場は、年間20数兆円と大きな規模で安定している。顧客にしっかりと地域の魅力を感じてもらい、売り上げさえ安定させれば、収益は運営の生産性を高めることで拡大できる。日本の観光産業は、需要ではなく、運営や生産性に問題がある。上がってきた売り上げからしっかりと利益を出す、そこに私たちのノウハウがある」
マルチタスク運営は地球上のどこでもロジックは同じ
―バリやタヒチなど海外への進出も決定していますが、海外事業も含めた、今後の事業拡大の方向性は。
「目標は持たないようにしているが、運営してくれという施設があれば、全部運営したい。星野リゾートの運営ノウハウが広まりつつあり、持ち込まれる案件は増えている。その中から自分たちに合ったものを選んで、増やしていきたい。基準は、短期的な利益でなく、中長期的な競争力を大事にしてくれるオーナー、投資家であること。一時的に利益が回復しても、その後の設備投資に資金が回らないと、施設が強くなる循環が生まれない。中長期的な競争力強化に合意してくれることが大事になる」
「星野リゾートの得意分野はマルチタスクであり、生産性の高い運営方法だ。そうである限りは、地球上どこへ行っても同じロジックだと思っている。集客はその地域の事情に合わせて、競合よりちょっとよくすれば良いのであって、我々に共感してくれるオーナーがいれば、場所はアフリカでもアイルランドでも、地球上どこでも行きたい。今は中国や台湾で話があり、企画開発などをしているところ。中国、台湾は実現性がありそうだ」
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