三洋化成のマザー工場“転換期”、SAP撤退で描く成長シナリオ
三洋化成工業の主力工場である名古屋工場(愛知県東海市)が転換期を迎えている。操業開始から約55年たっているため設備新設の余地がなく、老朽化対応が必要な設備も多い。ただ紙おむつなどに使う高吸水性樹脂(SAP)事業から撤退するのに伴い、スクラップ・アンド・ビルドの余地ができる。事業撤退のピンチをチャンスに転換できるかが問われている。(京都・友広志保)
三洋化成工業は特徴のある化学品を少量多品種生産する。名古屋工場は、生産能力が同社全体の約50%を占めるマザー工場だ。ただ茂信之名古屋工場長は「これ以上、設備を増設できない」と同工場の課題を明かす。
設備の老朽化対策も問題だ。順次更新を進めているが、顧客への製品供給を継続するには、新設備の稼働後に古い設備を撤去するのが望ましい。原料調達も踏まえると他工場への生産移管も簡単ではなく、設備更新を難しくしていた。マザー工場がこのような課題を抱えていた中で、茂工場長は「SAP事業撤退はチャンスとも捉えられる」と説明する。
SAPは世界で需要拡大が見込まれるものの、中国メーカーの台頭で価格競争が激しくなり、同社の収益を圧迫。名古屋工場におけるSAP生産能力は10万トン強だが、近年の生産量は3万トンまで落ち込んでいた。同工場でのSAP設備稼働は、2024年度中に終了する予定だ。
加えて、SAP生産の後工程である微粉砕の設備も停止する。現状は生産設備と建屋ともに撤去するのか、建屋だけ残すのかなど、対応策を議論している段階。ただいずれにしろ「パンパンだった工場に余地ができる」(茂工場長)ことにより、同社は成長シナリオを描きやすくなる。
名古屋工場を舞台に収益基盤の足場固めも進む。同工場内に研究部門出身の技術者チーム「ものづくり革新センター」を発足し、約1年がたった。研究者が現場に赴き、プラントオペレーターらとコミュニケーションをとって課題を知り、生産よりも上流工程のプロセス開発から無駄・課題をつぶしている。
例えばあるフィルターが詰まりやすいとき、従来の生産改善では掃除の自動化機器を取り付けようと考える。これに対し、研究者目線であれば、フィルター詰まりの原因となる副産物がそもそもできないように生産プロセスを組み立てる、といった具合だ。
田本明彦ものづくり革新センター長は「工場を知ると(生産プロセスは)全く違うものになる」と明かす。名古屋工場で順調に成果が出ていることから順次、国内外の他工場に同様の取り組みを広げていく考えだ。