生成AI活用広がる金融業界、商品の競争力強化へ
金融業界で生成人工知能(AI)を活用する動きが広がっている。提案書の作成やアイデアの検討、文章の要約、顧客からの問い合わせへの回答作成など、生成AIが活用される業務は幅広い。生成AIの活用が従業員の業務効率化にとどまらず、顧客対応力や商品の競争力の強化にもつながると期待される。ただ、生成AIが出力する情報の正確性が足元の課題とされている。(石川雅基)
「生成AIを軸に業務プロセスを全面革新したい」。クレディセゾンの水野克己社長は生成AIにこう期待を込める。同社は業務効率化を目的に全社員が使用できる生成AIを内製開発し、活用を推進してきた。2023年11月に文章の要約や企画立案に活用できる社内チャットGPTの運用を全社的に開始。その後、社内業務や規則などの問い合わせに対応する社内情報回答チャットボット、議事録内容を要約する議事録作成システムの提供も始めた。今後は生成AIで顧客体験の向上や新規事業の創出にもつなげる方針だ。
銀行でも生成AIの活用が進んでいる。三菱UFJ銀行は23年11月、内製化したチャットGPTを国内全行員向けに提供を始めた。生成AIはウェルスマネジメント(富裕層向け資産運用)の提案書作成など顧客向け業務での活用も想定する。提案力の底上げにもつなげる。
りそな銀行をはじめとするりそなグループでは生成AIのポータルサイトを作成。利用者が求める回答が出力されるように、入力をサポートするテンプレートも作った。使いやすさを高めたことで1日1000人程が利用している状況だ。
一部の企業では顧客対応や顧客向け資料作成などの業務でも生成AIを活用している。三井住友カードはコンタクトセンターに寄せられる問い合わせへのメール回答の草案を生成AIで作成する仕組みを6月に構築。同社によると、生成AIで顧客の利便性を向上させる取り組みは国内クレジットカード業界で初という。生成AIの基盤となる大規模言語モデル(LLM)を手がけるELYZA(イライザ、東京都文京区)と連携して開発した。
検索拡張生成(RAG)技術を使って社内データから草案を作る。オペレーターがフォームに入力するだけで出力される仕組みのため、特別な研修がなくてもスムーズに導入できたという。生成された草案の半数程は修正せずに送信できる精度。三井住友カードオペレーションサービス統括部の大保友実グループ長は「修正しなければ1件当たりの作業時間を約6割削減できる」と話す。
精度を高めるためにシステムには作業者が改善点などを入力するフィードバック機能を付けた。同社マーケティング本部データ戦略ユニットの岡本大督プロダクトオーナーは「精度の向上にはデータベースの作り込みが重要。フィードバックから何がダメだったかを調べ反映していく」と運用方針を説明。今後、人と同等以上の回答ができる精度に高める考え。
損害保険ジャパンは法人顧客の対応に生成AIを活用する。チャットGPTを用いて、サイバー保険の営業提案書に事故事例の情報を盛り込む仕組みを作った。業種や売上高を入力すると企業に合った事故事例が出力される。提案書作成時間を1分以下に縮めた。
自社のサービスに生成AIを連携させ、機能を拡充する動きもある。マネーフォワードは7月、チャットGPTを使って顧客に財務リポートを提供するサービスを開始。顧客は会計データとチャットGPTを応用プログラムインターフェース(API)連携することで利用できる。チャットGPTで「今月の損益状況をリポートして」などと入力すると財務・経営状況に関するリポートや改善ポイントが表示される。
帝国データバンクが6―7月に実施した調査では、生成AIを活用していると回答した企業は約17%。そのうち効果を感じていると答えた企業は約87%に上った。一方、課題は生成AIが出力する情報の正確性だ。情報の正確性を課題に挙げる企業は4割を超えた。
野村総合研究所DX基盤事業本部IT基盤技術戦略室の鷺森崇エキスパートリサーチャーは生成AIの正確性向上には「RAGやガードレール(安全対策)に加え、品質の高いデータの収集がカギとなる」と指摘。「企業はどういう方法でどのようなデータをためるべきか考えなければならない」と話す。
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