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アイリスオーヤマ、食品事業の売上高1000億円に

パックご飯・炭酸水の生産設備導入

佐賀・鳥栖が飛躍に向けた足がかり―。アイリスオーヤマ(仙台市青葉区、大山晃弘社長)が、2030年をめどに食品事業の売り上げを現状比3倍超となる1000億円とする目標を打ち出した。鳥栖工場(佐賀県鳥栖市)で、新たにパックご飯と炭酸水の生産ラインを稼働した。11年の東日本大震災が参入の契機となった食品事業で今後の伸長を見込む。佐賀県や鳥栖市にとっても計210人の雇用が地域社会への活力を与えそうだ。(九州中央支局長・林武志)

※自社作成

「参入から10年で事業売り上げが290億円となった。24年は430億円を見込む」―。アイリスの大山社長は食品事業について、こう手応えをつかむ。震災からの復興支援を目的に食品事業に参入した同社は13年に精米、15年にパックご飯、21年に飲料水などと品目数を増やしてきた。

これまでパックご飯は角田工場(宮城県角田市)、飲料水は静岡県内の2工場で生産してきたが、鳥栖工場は西日本初の食品製造拠点で物流の効率化も見込める。「歴史ある工場」(大山社長)である90年稼働の鳥栖工場では、プラスチック生活用品や発光ダイオード(LED)照明を手がける。

今回、鳥栖工場の空きスペースを活用してパックご飯と炭酸水の生産ラインを設けた。パックご飯は1日当たりの生産能力が20万食のライン。今後2ライン目を稼働予定で計約50億円を投じる。約70億円を充て1ラインを据えた炭酸水は1時間に3万1200本を生産できる。

共働き家庭の定着や手軽にできたてご飯が食べられることから、大山社長はパックご飯市場について「年率5%で成長し、今後も拡大が見込める」と分析する。備蓄活用できる飲料水も同様に今後の需要は底堅いとみる。

雇用創出で地元に活力

鳥栖工場の炭酸水の生産ライン

地元の期待は雇用だ。アイリスは鳥栖工場での食品製造に伴い、精米・パックご飯で130人、飲料水で80人を新規雇用する。鳥栖市の向門慶人市長は鳥栖工場について「約35年にわたり鳥栖市で操業し、立地協定も4回締結した」と振り返る。立地する市西部の工業団地は08年のリーマン・ショック後に撤退を余儀なくされた企業もあったがアイリスは鳥栖に居続け、撤退場所を買い取って工場増床もしてきた。

向門市長は「何よりも400人超の地元雇用がありがたい。(工場近くにある)佐賀県立鳥栖商業高校など、高校生の採用を継続してもらっている。(行政として)我々の課題でもあるが、若い人たちが鳥栖に残る理由になる」とアイリスの雇用方針に感謝する。

パックご飯や飲料水は成長市場でもあるが、競合プレーヤーも多い領域だ。勝ち抜くための差別化について大山社長は「ご飯は低温製法などで味わいをより豊かにする。水は炭酸量が多い点を売りに販売していきたい」と強調する。大山社長が「アイリスグループのもう一つの柱にしたい」と意気込む食品事業。パックご飯などは東南アジア諸国連合(ASEAN)などへの輸出も見据えるが、地元に寄り添う鳥栖工場での取り組みがその試金石となりそうだ。

日刊工業新聞 2024年07月15日

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