熱中症対策、企業人が社外に伝授… 「予防指導士」活躍中
夏本番が近づき、熱中症への警戒も強まってきた。産業界でも課題となっており、企業も従業員への対策が求められている。そんな中、城西(松山市、山本貢社長)の山本浩営業開発管理部長は予防や対処の知識を習得して他社にも熱中症対策を指導する。日本造船協力事業者団体連合会(東京都港区)も、業界を挙げて対策に取り組む。(編集委員・松木喬)
【城西・山本部長】顧客向け勉強会
城西の山本部長は四国4県に1人だけの「熱中症予防指導士」だ。同指導士は日本スポーツ健康科学学会が2017年に創設した独自の資格制度。職場での熱中症の予防について適切な助言ができる人材育成を目的としている。
同社はヘルメットや手袋、長靴などの安全用品を販売しており、主な顧客は建設会社。熱中症対策用品も扱っているが、「商品を売るだけでいいのか。正しい使用法や予防の情報を提供する必要があるのでは」(山本部長)と感じていた。
7、8年前、防塵マスクの仕入れ先である興研の斉藤雄司常務執行役員から熱中症予防指導士取得を勧められた。行政が主催する熱中症対策講習もあるが、座学が中心。熱中症予防指導士の講座では座学以外にも、運動して汗をかいた後の体の変化の観察もあった。17年に受講し、「習ったことが実証され、印象に残った」(山本部長)と振り返る。
リポートを提出して合格した山本部長は顧客に声をかけ、勉強会を始めた。自身で資料を作成し、顧客の従業員に基礎情報や対策、症状別の対処法を指導する。これまで開催した業種は建設や自動車整備、保険会社、農業関係とさまざまだ。
続けていると企業側からも依頼されるようになり、年15回ほど勉強会を開くようになった。地元テレビ局がその様子を放送するなど、地域でも注目されるようになった。また、同社の営業担当者が顧客に勉強会を提案したり、取引のなかった企業からも依頼されたりするようになった。
山本部長は「企業による社会貢献」と話すが、取引先との信頼関係が深まり、企業価値向上にもつながっている。
【日造協・小島統括本部長】印刷物で簡単確認
日本造船協力事業者団体連合会(日造協)の小島信樹統括本部長も熱中症予防指導士であり、“指導士の会”の会長も務める。
造船業界の作業者は熱中症リスクと背中合わせだ。造船所が海沿いにあるので湿度が高い上に、船内作業が多い。しかも、溶接や塗装のために保護具を装着するため、体内の水分を急激に失う。
ファンが付いた作業服はあるが、火気を扱う現場では引火の恐れがあって装着できない。また、冷気が流れるホースを体に巻き付ける製品もあるが、ホースが作業の邪魔になるため、熱中症対策に苦労している。
10年ほど前、日造協は会員である造船所の協力会社に経口補水液などの支給を始めた。だが「物を配るだけで、専門的な知識がなかった」(小島本部長)という。そんな時、城西の山本部長と同様、興研の斉藤常務執行役員から熱中症予防指導士を勧められた。
小島本部長も講座で得た知識を生かし、造船所向けに啓発ポスターを制作した。さらにポケットに入る大きさの冊子も作った。その冊子には家での予防や始業前のチェック項目、適切な水分補給、発症時の対処法がマンガ入りで記載されている。作業員は携帯していつでも確認できる。要点が絞られており、一目で対策や対処法が分かる。
現場で必ず実施される安全衛生教育にも熱中症対策を入れている。また、手首に巻いて体温などの情報を検知して熱中症の危険性を知らせる器具など、最新の対策製品の情報を会員に提供している。「熱中症予防指導士の資格を取得して終わりではない。対策をアップデート(更新)していく」と気を引き締める。
日本スポーツ健康科学学会によると熱中症予防指導士の受講者は56人。講座は年1回、定員20人で開講する。コロナ禍には中止することもあったが、オンライン形式でも実施した。