発行8000枚超…国立公園デザインの「WAON」、若者から支持
イオンリテールが3月に発行した国立公園(用語参照)をデザインに採用した電子マネー「WAON(ワオン)」が、若い層から支持されている。発行は8000枚を超え、予想以上の利用になっている。普段の買い物で自然保護に貢献できるようにし、環境活動に参加するハードルを下げた。同社や環境省にとっても効果のある取り組みとなっており、ネイチャーポジティブ(自然再生)の推進が期待できる。(編集委員・松木喬)
イオンリテールが発行する「日本の国立公園WAON」は、利用額の0・1%が環境省を通じて国立公園の保全に使われる。米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」用のアプリケーション版とカード版がある。アプリ版は無料、カード版は店舗で300円(消費税込み)で購入できる。
アプリ版は全国34カ所の国立公園から選べる。例えば瀬戸内海国立公園を選ぶと、海に島々が浮かぶ写真がスマホ画面に表示。尾瀬国立公園は白い雲と青空が映り込む水面、南アルプス国立公園は雲海から山頂が出た画像だ。カード版は複数の国立公園を重ねたイメージ的な絵柄だ。
6月2日時点で発行された8000枚のうち、5500枚がアプリ版だ。また、アプリ版の利用者の半数がスマホの利用に慣れた30代以下。国立公園を訪ねた記念にダウンロードする人もいるが、店頭などの掲示物を見て利用を始める人も少なくない。イオンリテールWAON推進部の山元環樹部長は「若い人が国立公園を知るきっかけになっている」と期待する。
また、同社は地域振興に利用額の一部が使われる「ご当地WAON」も発行している。国立公園のWAONはご当地WAONよりも発行ペースが早い。想定する年2万枚を超える発行が見込まれており、自然保護に関心を持つ人が多いことがうかがえる。
山元部長は「みんなが参画しやすいスキーム」と太鼓判を押す。利用者は、日常の買い物で環境活動に参加できる。環境省も若い層を含めた国民に国立公園を認知してもらえ、保護の資金を得られる。イオンにとっても自然を意識する客が増えると、環境に配慮して生産した商品が選ばれやすくなる。環境配慮商品の品ぞろえが増えると、製造する企業にもメリットとなる。
また、アプリ版には廃棄物を減らす利点もある。イオンリテールは2022年、環境省と国立公園の魅力を発信するパートナーシップを締結し、WAON発行の検討を開始。協議を重ねて全34カ所を発行することにしたが、すべてをカード版すると在庫の管理が難しいことからアプリ化した。カードの素材はプラスチックであり、アプリ化はプラ削減になる。店頭販売する1種のカード版はプラ製だが、包装や並べる棚を紙製にして環境負荷を減らした。
自然再生が世界目標となり、企業にも対応が迫られている。また、生態系保全に向けた行動を起こす「生物多様性の主流化」も求められる。WAONの取り組みにより、イオンリテールは事業を通じて自然再生と生活者の主流化も後押しできる。
【用語】国立公園=日本を代表する自然の風景地を保護するために国が直接管理する自然公園。私有地も含まれる。24年3月、最初の指定から90周年を迎えた。