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欧米の脱炭素、経済一体化鮮明…日本に求められる“したたかさ”

欧米の脱炭素、経済一体化鮮明…日本に求められる“したたかさ”

日本企業126社が最優秀に選出されたCDPの表彰式

欧米の気候変動政策が、経済政策との一体化を鮮明にしている。欧州連合(EU)は、温室効果ガス(GHG)排出削減に取り組むEU企業をコスト競争から守る制度を創設した。米国は55兆円をつぎ込んで企業に手厚い支援策を打ち、全米で工場誘致が過熱している。脱炭素の大義を掲げながら、産業育成に余念がない欧米の“したたかさ”が日本にも求められる。(編集委員・松木喬)

EU“不熱心”な国の安価品阻止 温室効果ガス削減対策コスト徴収

EUは2023年10月、新たな気候変動政策「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」を導入した。温暖化対策に“不熱心”な国からのEU内への輸入品に対し、GHG削減の対策コストを課す制度。鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、水素、電気が対象だ。25年末までは移行期間とし、輸入品のGHG排出量の申告を求める。

本格運用となる26年以降、EUの排出量取引制度の炭素価格を基準に決める対策コストの支払いを義務化する。手続きとしては証書を買い取らせる形となる。

CBAMには、欧州から規制の緩い国へ生産拠点が流出し、世界全体の排出量が減らない“カーボンリーケージ(炭素漏れ)”を防ぐ狙いがある。世界の環境政策を主導する欧州らしい制度だが、産業保護政策としてもみられている。

EU内の企業は排出量取引制度による炭素価格の支払いや対策コストが生じている。温暖化対策が不十分な国の企業はコスト負担がなく、EUに安く商品を輸出できる。EU内企業にとっては不公平であり、CBAMによって安い製品の流入を防ぐ。

※自社作成

みずほリサーチ&テクノロジーズ(東京都千代田区)サステナビリティコンサルティング第1部地球環境チームの元木悠子次長は「EUは表立ってCBAMを産業政策とは言っていない。気候野心(目標)を損なわない制度と言っている」と説明する。生産国でEUと同等の負担している輸入品には証書の購入を求めない。つまり気候変動対策に“熱心”かどうかは、排出量に応じて費用負担するカーボンプライシング(CP、炭素の価格付け)の導入次第であり、世界の気候野心を保てる。

日本の地球温暖化対策税は、排出量1トン当たり289円。また、日本では排出量取引制度が26年度から本格稼働し、28年度からは化石燃料の輸入事業者などに炭素賦課金が課せられる。EUが日本のCPを“熱心”とみるかどうかが焦点だ。

さらにEUは“アメとムチ”を鮮明にしている。EUの行政府である欧州委員会は2月、域内のGHG排出量を40年に1990年比90%削減するように勧告した。実際の目標となるか不明だが、論戦が始まる。

厳しい目標を迫った同じタイミングで、EU理事会などは脱炭素製品を対象にEU内での生産比率を40%にするネットゼロ産業法案に政治合意した。同法案は製造拠点を設ける許認可を簡素化し、EU内への企業進出を促す。現状では太陽光パネルの多くを中国からの輸入に頼っており、新法によって「メード・イン・ヨーロッパ」を優遇して脱炭素製品の中国依存を引き下げる狙いが透けて見える。

米国政府から手厚い支援、42兆円の投資誘発

※自社作成

米国は「アメ」に比重を置いた気候変動政策を推し進める。その象徴が、バイデン米政権が22年8月に成立させた「インフレ抑制法(IRA法)」だ。10年間の歳出総額の8割に占める3690億ドル(55兆円)を気候変動対策とエネルギー安全保障に計上した。

巨費を充てる先は、太陽光パネルやクリーン車の国内製造、電力事業者の再生可能エネルギーへの移行、化学や鉄鋼産業の排出削減、住宅の省エネ化など。補助金だけでなく税額控除もあり、米国で脱炭素に投資する企業は負担軽減の恩恵が長続きする。

各州は競い合うように太陽光パネルや電気自動車のバッテリー工場を誘致している。バイデン政権と対峙(たいじ)する共和党の地盤であるテキサス州は、最も再生エネの投資に活発だ。ホワイトハウスによるとIRA法は運用が始まった22年8月からの約1年で272件の事業が生まれ、全米に合計2780億ドル(42兆円)の投資が誘発された。さらに効果として44州で17万人の雇用も創出した。EUのネットゼロ産業法案は“欧州版IRA法”と呼ばれており、欧米で脱炭素をめぐる誘致合戦が熾烈(しれつ)になりそうだ。

企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の代表団は23年末、IRA法を主導した米国の前気候担当大統領補佐官のジーナ・マッカーシー氏らと面談した。三宅香JCLP共同代表(三井住友信託銀行フェロー役員)は「気候変動政策は経済政策でもある」と強烈に感じたという。

日本ビジネス乖離埋める政策を

翻って日本の政策を心配する声が上がっている。政府は今後10年で20兆円規模のGX経済移行債を発行し、GHG排出量の多い産業の脱炭素化を支援する。IRA法に対抗して税額控除も検討するが、欧米を追随する感が否めない。現状のペースでは、日本の30年度目標である排出量46%削減(13年度比)達成には、海外で生産した太陽光パネルと風力発電設備に頼らざるを得ない。

非政府組織(NGO)の英CDPは、環境対策で最優秀の「Aリスト」に選んだ日本企業126社を表彰するイベントを都内で開いた。CDPは世界の大企業の環境評価で影響力があり、日本はAリスト企業数で国別トップに輝いた。また、日本企業は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同数で首位。他の国際的な活動への参加数も上位だ。

気候変動対策をめぐる日本企業への高評価と、ビジネス競争に乖離(かいり)があってはいけない。政府には国内に雇用や市場を創出する政策が望まれる。

日刊工業新聞 2024年04月04日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
米国は中国製太陽光パネルが不当に安いとしてダンピング関税を課しています。EUのエコデザイン規則では、単層フィルムの食品しか認めないとなりそうなので、日本で生産して単層だと日持ちがしないので輸出が制限されそうです。ある人が「脱炭素は雇用の問題」と言っていました。したたかさを感じました。

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