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シャイアー買収が転機、武田薬品が気候変動対策に熱心なワケ

シャイアー買収が転機、武田薬品が気候変動対策に熱心なワケ

再生エネ電力を利用する武田の光工場(山口県光市)

日本は“環境後進国”に転落したと言われている。再生可能エネルギーを入手しにくく、企業の脱炭素化が遅れたためだ。その逆境をはねのけ武田薬品工業は2019年度、カーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ、脱炭素)を実現した。同社は、温暖化対策に積極的な企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)に参加しており、岩﨑真人代表取締役日本管掌が共同代表に就いた。最前線で活動する岩﨑氏に脱炭素への思いを聞いた。

武田薬品工業代表取締役日本管掌・岩﨑真人氏

―武田が気候変動対策に熱心な理由は。
 「19年のシャイアー(アイルランド)の買収が転機の一つだ。規模拡大に伴ってコーポレートフィロソフィー(企業哲学)を見直し、『私たちの約束』として以前から取り組む地球環境保全を明文化した。温暖化によって熱帯や亜熱帯の感染症が世界各地に広がると言われている。武田は人々の健康にフォーカスした会社であり、気候変動による健康被害を防ぐことも従業員のモチベーション(意欲)となる。若い社員も喜んでくれた」

―武田がいち早く脱炭素を達成できた要因は。
 「“やるなら早い方がいい”が武田の精神であり、“決めたら先送りしない”のが企業文化だ。そして脱炭素の議論はトップダウンに近い形で始まった。若い人だけでは行動を起こしにくくても、トップが考えてくれるなら進めやすい。クリストフ・ウェバー最高経営責任者(CEO)が20年1月、医薬業界最大の投資家向け会議に登壇して気候変動に言及し、対策を絶対にやるべきだと宣言したことも大きかった」

―日本は脱炭素に取り組みにくいのでは。
「各地域でできることを最大限やる。日本がやりにくいからと言って後回しにしない。正直に言えば日本の再生エネはコストが高い。しかし、私たち以外でも自分たちの使命として再生エネを使う日本企業がある。それに、取り組みによって武田を魅力的と思う学生が増え、優秀な人材が集まるチャンスがある。他社や研究機関からも武田と組みたいと言われるだろう。気候変動対策によって選ばれる会社になると信じている」

―JCLP共同代表としての抱負を伺います。
「1社が努力しても全体が良くなるわけではない。だからこそパートナーシップが大切だ。気候変動の深刻さや対策が利益になることをパートナーと一緒に啓発し、企業が脱炭素への覚悟を決めるサポートをしていきたい。そしてみんなで声を上げ、必要なことは政府にも伝える」

―政府への期待は。
「日本が脱炭素に遅れると、海外からパートナーとして見てもらえなくなる。再生エネを使いにくいという理由で企業が流出し、雇用が減ると日本の産業力が低下する。大きな問題であるからこそ啓発が大事で、政府の役割もそこにある。政府には再生エネを安く、大量に供給してもらえるように支援してほしい。そのために排出量に応じて費用負担するカーボンプライシング(炭素の価格付け)の考え方もある」

―エジプトで6日から始まる気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)に参加する狙いは。
「まずは日本のコモンセンス(常識)の確認だろう。脱炭素社会への目標や道筋について他国や他社の声を聞き、日本にフィードバックするのが役割と思う」

【解説/環境先進国復権へ連携】
 英アストラゼネカや英蘭ユニリーバといった海外企業は日本拠点でも再生エネ100%を達成した。ある外資企業幹部は「方法があるのにやらないのはおかしい」と語り、高値を承知で再生エネを購入し、日本政府にコスト低減を求めている。

気候変動対策の機運が高まる中、武田はほかの場所の排出削減を支援し、自社の排出量を打ち消す「オフセット」も使って脱炭素を達成した。今は再生エネの利用による排出削減を進めており、日本の主要拠点は再生エネ化した。

岩﨑真人代表取締役日本管掌は「健康に従事している会社が気候変動対策に取り組まないとしたら、モラルに反する」と原動力を語る。武田は他社と連携しながら“環境先進国”復権を目指して活動を一段と強化する考え。(編集委員・松木喬)

日刊工業新聞 2022年10月28日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
政府が50年カーボンニュートラルを宣言する前に脱炭素を達成していました。日本を代表するグローバル企業が躊躇なく脱炭素を実現したこと、さらに他社を巻き込んでも推進する姿勢に、本気度を感じました。よく歩くというご自身のエコ活動も環境と健康を両立していました。

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