受けとめ真逆で混迷深まる…日本学術会議、あり方の行方
日本学術会議のあり方をめぐる問題の混迷が深まっている。有識者懇談会の下の作業部会では、有識者の提案に対して学術会議が根拠や実現性を問いただし、有識者がうまく答えられずに場が険悪になっている。業を煮やした有識者から新体制に向けた会員刷新が示唆され、学術会議はまったく受け入れられないと反発する。膠着(こうちゃく)の中に75歳定年延長などの重要事項が滑り込む。有識者懇談会での経過が再現している。(小寺貴之)
「学術会議と徐々に話ができるようになってきた。楽観的かもしれないが、そういう印象を受けている」―。有識者懇談会座長の岸輝雄東京大学名誉教授は作業部会から報告を受けて目を細めた。会員選考を検討する作業部会からは「新法人発足時は特別な選考方法で選考」と記された報告が上がった。
これに学術会議側は猛反発している。光石衛会長は「政府には項目の削除を求めた。もし実施されれば学術への介入になる。会員にも説明ができない」と訴える。
作業部会では有識者から「新しい酒は新しい革袋に盛れ」「いままでのことをガラガラポンと捨てて、もう一回つくり直す」などと組織・会員の刷新が示唆されてきた。現在の学術会議会員にとっては自身を麻雀牌に例えられて退場を要求されているように聞こえてしまう。光石会長は「まったく受け入れられない」と強調する。
岸座長は「来年度予算要求と2年後くらいを想定している(学術会議の)移転に向けた議論を一緒に進めなければ」という。内閣府の事務局は「決まった年限はない」と2年後移転を否定するが、裏側で計画や新体制の策定が始まっていて現体制は刷新されるのではないかと疑心暗鬼を生んでいる。
その中で、作業部会主査から会員任期を現行の6年間から9年間への延長と定年の75歳引き上げが提案されている。問題は大学の定年とのギャップだ。学術会議の会員は大学などに所属しており、研究室の部下や学生が最新情報を会員本人に提供する役割を担ってきた。論文の発行数は急増しており、1人の研究者が読める量ではなくなった。若手が支える仕組みがないと論文の動向把握もままならない状況がある。
国立大学の定年は公務員の定年引き上げに沿うように65歳へと段階的に引き上げられる見通しだ。65―75歳の部下を持たない研究者の実務能力の担保が課題になる。仮に学術会議の事務局で博士人材などを抱えることになると、専門分野ごとに若手を複数人配置するため運営予算が数倍に膨らむことになる。
また70代で現役を維持する研究者は国の機関や外郭団体の役員などに就いている人が多い。審議会などの政府での仕事で活躍しており、政府と新生学術会議は意思疎通しやすくなると見込まれる。
現在は有識者と学術会議の意識をすり合わせ、具体策検討に向けて想定範囲を絞り込む段階だ。だが会員刷新などがちらつき「議論を重ねるほど懸念が深まる」(光石会長)状況にある。
これを見かねて1997―2023年(第17―25期)に会長を務めた6人の元会長が議論を改めるよう声明を出した。懇談会で繰り返し発言されている「PTAで役が当たってしまったということでは困る」という指摘に対し、梶田隆章東大卓越教授は「会員の学術会議への思いの強さは多少違いがある。だがそれを矮小(わいしょう)化し、話をすり替え、会員刷新をほのめかすやり方は腹立たしい」という。広渡清吾東大名誉教授は「有識者の思いつきを並べ、都合のいい意見を選んで改革案を作る。政府の審議会とまったく同じ」と指摘する。建設的な議論が実現するか注視される。