「気付き」を考える…いつもと異なる相手と交わりを
近年は記事もウェブ検索で広く読まれ、面識のない相手から情報交換の依頼を受けることが、たまにある。先日はIT人材育成の新興企業の広報と面談した。立場や関心を披露し合いながら、「どの切り口でならウィン―ウィン(Win―Win)になるか」を探った。残念がら、すぐの相乗効果は難しいと気付いてからは、会話を意識的に変えてみた。つまり相手の想定になさそうな、けれども伝えておきたいテーマへシフトさせたのだ。
例えば理工系人材育成の文部科学省支援事業について。日本の大学は私立大学を中心に文科系の比重が高い。その中でデジタルや環境などの学部・学科の新設・拡大に動いてもらうのが国の狙いだ。加えて私は「理科系の知見が少ない大学も、他の大学と教員を共有する『基幹教員』制度が使えそうだ」「IT企業社員が『実務家教員』として、兼業で教壇に立つケースが増えるのでは」と紹介した。同社が支援する若手・中堅が、新たな可能性を知ることは有益だと考えたからだ。
取材ではしばしばエグゼクティブが相手で時間も切り口も絞らざるを得なくなる。対して相手の経験が浅い場合は、こちら側の思考や発想も自由になって広がっていく。後日のメールに「気付きがたくさんありました」とあり、うれしかった。
もちろん大学担当記者という本業でのネタ探しも忘れていない。同社の大学関連のニュースは2年前の発表案件しかなかった。そのため、その後の発展を聞く役員取材を入れることができた。そしてもう一つ。このコラム執筆にもつながった。
気付きの多くは、いつもと異なる相手との交わりから生まれるもの。社会の多様性重視とも重なる。ベテラン世代ほど意識したい。
日刊工業新聞 2024年5月30日