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東工大・東京理科大・芝浦工大…大学工学系「女子枠」に大注目、定着への道筋は?

東工大・東京理科大・芝浦工大…大学工学系「女子枠」に大注目、定着への道筋は?

芝浦工大のサマーインターンシップに参加する女子高生ら

大学の工学系で女子学生が少ない状況を変えるため、通常とは別の選抜法で女子を増やす「女子枠」が注目されている。ポイントは「学力不足の女子を受け入れるのか」といった誤解をいかに解くかにある。今春の2024年度入試から始めた東京工業大学東京理科大学に加え、蓄積のある芝浦工業大学の例から女性枠の定着に向けた道筋を明らかにする。(編集委員・山本佳世子)

選抜法分け公平性確保

女子枠を設ける大学の増加は数年前に文部科学省が「多様な背景を持つ学生の選抜を推奨する」という通知を出したのがきっかけだ。その例に理工系分野の女子が挙げられた。「山田進太郎D&I財団」は1月に、女子枠の実施・予定の約40大学にアンケートを実施。回答24大学のうち9割が23年度以降だった。今春、新たに導入を発表したのは京都大学大阪大学、室蘭工業大学など。流れはしばらく止まりそうにない。

受験と性別の切り口では6年ほど前に発覚した医学部の入試差別がある。「医師になっても女性は出産・子育てと現場を離れがちで好ましくない」と、同じ試験の合格点に男女差を付け、それを伏せていた。

そのため文科省の通知では、留意点に「社会的な障壁を除く一助になるという、合理的理由」と「選抜区分を分けた実施」を挙げた。同一選抜における特定の属性での扱いは変えられないが、別の選抜法なら公平性に反しないという解釈だ。

性別をはじめ多様性重視は産業界でも大きな動きだ。しかし富士通の時田隆仁社長は「産業界における性差の公平性や機会均等の取り組みは、業種業態でかなり違う」とみる。それだけに出身の東工大の益一哉学長から面談で説明を受けて、「社会全体の課題に対し、大学の取り組みは産業界にポジティブに作用する」と期待を寄せている。

過半数が年内入試 自由な設計、異能引き出す

女子枠に対する批判は「レベルが下がる」「逆差別だ」というものが中心だ。それは日本の大学入試が筆記の学力試験による「一般選抜」が中心で、試験勉強の努力と重ねて重視されたためだ。

しかし、状況は急速に変わっている。「総合型選抜」「学校推薦型選抜」を合わせると23年度入試で半数を超えた。女子枠はその一つに過ぎない。

東京理科大の石川正俊学長は「かつては社会が求める課題解決力と、一般選抜でみる能力が近かった」と振り返る。しかし「今、求められる“これまでにない視点を持つ人材”は、違う能力を持つ人を集めたキャンパスで育成するしかない」と強調する。

これらの入試は設計の自由度が高く、学生のさまざまな魅力を引き出せる。学生確保に苦労する大学では学力不問に近い設計もあるが、トップクラスの多くの大学も導入に動く。

導入率は旧帝大でも1割程度は珍しくない。突出する東北大学は現状で約3割、将来は10割へと意気込む。東工大も女子枠設定前から約1割を占める。東工大では奨学金でも地方出身者や、家族の中で初めて大学に進学する「ファーストジェネレーション」向けなどを用意し、従来の単一カルチャーから脱却して多様性を高めるというメッセージを発信している。

東工大/受け入れ側の理解促進

東工大は22年秋に「24、25年度に計143人の女子枠を導入し、学士課程の女子比率を約13%から20%以上に引き上げる」と発表した。関東圏の進学校出身の男子が大半を占める理工系トップ大学とあって、会員制交流サイト(SNS)などで激しい反対の声が挙がった。しかし今春の志願者倍率は平均4・6倍と、当該の女子に強く支持される結果となった。

益学長(中央)は数度の教員研修で理解促進に動く(東工大)

それだけに受け入れ側の理解促進は同大にとって大仕事だ。学生はリベラルアーツ(教養教育)の授業で、女性差別の歴史的背景など学んだ上で議論を実施。その授業を通じて「男性が支配的立場にあると意識していなかった」「男性が高いげたを履かせてもらっていた、という表現に納得がいった」などの声があったという。

益学長は女性教員向けに3回、53歳以上の男性教員向けに2回、説明の場を持った。誤解は入試業務の経験がない若い女性教員の間でもあったという。益学長は「女子枠の実施はエネルギーがいる。少人数の設定では割に合わない」と、他大学には思い切った実施を勧めている。

東京理科大/理工系、今年度3割に向上

女子学生の実数と比率で目を引くのは東京理科大だ。理工系女子の在学数は4000人超。女子入学者(夜間学部を除く)比率は23年度に25・2%だったのが、女子限定選抜を始めた24年度には29%とほぼ3割に高まった。

東京理科大は女子比率がほぼ3割になった(女子高校生などに向けた説明会)

理工系人材の入学定員で同大は日本大学に次ぐ2位。薬学や建築、生物系などの女子比率は5割近い。比率の低い学科での女子限定選抜は、48人の募集に志願が39人、合格は25人だった。工学部機械工学科の女子比率は約21%と倍増し、初年度として効果はまずまずだとみている。

選抜はまず、高校の成績の提出で始まるが数IIIの履修は必須。さらに小論文や志望理由の面接に加え、学科別に重視する数学や物理の口頭試問などがある。「一般選抜の枠で試験の合格点を下げるのではない」(石川学長)ため、同大は「女子枠」でなく「女子限定選抜」という言葉を使っている。

芝浦工大/高校生向け研究室体験

「最近は上級生の女子が新入生歓迎の女子会を開いたり、女子向けのオープンキャンパスの企画をしたり。女子学生増によって様子がぐっと変わってきた」というのは、芝浦工大の磐田朋子副学長だ。

同大の女子枠は18年度入試からと早かった。女子高向けの1週間の研究室体験、女子生徒の保護者向け大学説明会など、多様な策で女子学生比率を20%ほどまで上げてきた。

3大学が口をそろえるのは「どの入試でも一般選抜でも、入学後の成績に差は見られない」ことだ。偏差値主義が批判されてきた日本の大学入試の転機に女子枠はぴたりとはまっている。

日刊工業新聞 2024年05月02日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
今の大学入試は筆記試験が半数以下と、昔と状況は大きく変わっている。各大学を偏差値でみる時代では、なくなりつつある。現代はキャンパスに多様な人材を集めることが重視されており、女子枠はその一つ。しかも「数Ⅲ履修が必須」「物理や数学の口頭試問など、その分野で必要とされる学力の確認を行う」など、選抜法はきちんと設計されているー。 このことを社会の多くの人が(取材前の私も含め)、わかっていないと感じたのが、本記事の執筆の動機でした。ぜひ多くの人に理解を深めてほしいと思います。

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