コマツ・日立建機…建機メーカー対応必須、二つの〝X〟
建設機械メーカーの2024年度のテーマは、デジタル変革(DX)とグリーン・トランスフォーメーション(GX)の二つの“X”になりそうだ。建設現場の深刻な人手不足が続く中、建機施工の自動化や施工管理のオートメーション化が急務となっており、建機業界も早期の対応が求められている。また建機の二酸化炭素(CO2)排出量は産業全体の1・4%を占めることから、各社は脱炭素に向け電動化や水素燃料電池の開発を推し進めている。(編集委員・嶋田歩)
ICT機能後付け提案 遠隔操作で安全・生産性向上
「i―コンストラクション2・0を達成するためには生産性を今より1・5倍に挙げることが必要になる」。千葉・幕張メッセで開かれた「建設・測量生産性向上展」の開会式で国土交通省の森下博之参事官は語った。
国交省は4月にi―コンストラクション2・0を発表。建設現場の省人化について、40年度までに23年度に比べ3割削減する目標を掲げた。高齢化や人口減少に加え、4月から時間外労働の上限規制が建設業にも適用されたのを受けた措置。工期厳守のため休日が取れず、炎天下や極寒でも作業を強いられる過酷な環境では労働者確保は難しい。必然的にデジタル機器や人工知能(AI)、ソフトウエアを駆使した情報通信技術(ICT)建機が不可欠になる。
コマツや日立建機はこうした現場要望に対応し、油圧ショベルにICT機能を後付けできるキット商品を開発。3次元(3D)設計データとバケットの位置情報を比較し、その差をリアルタイムで案内し、オペレーターは迅速で正確な施工ができる。日立建機の先崎正文社長は「手持ちのショベルを簡単にICT建機化できる、顧客側の立場に立った商品だ」と胸を張る。
米キャタピラーも客の手持ちの建機を有効活用する車両管理アプリケーション「ビジョンリンク」を開発。稼働時間や燃費などの機械状況から、点検履歴などのメンテナンス情報を一元管理できる。パソコン以外にスマートフォンのアプリでも使えるため、現場に居ながらの機械管理が容易に行える。
建機の遠隔操作も各社が開発競争を繰り広げている。コベルコ建機は22年12月から「K―DIVE」の提供を開始。遠隔操作で安全な環境から建機を扱うことで生産性向上を図るほか、クラウド上で稼働データを活用し、業務効率化や繁閑調整、人材の育成管理にも利用できる。単純な遠隔操作だけでなく、人手不足や人材育成にも対応する。場所や時間にとらわれず働ける環境を提供することで「将来は子育てや介護などで就労が困難な人にもオペレーターとして働いてもらうことが期待できる」(コベルコ建機)としている。
1月に発生した能登半島地震は、災害現場における建機稼働の危険性を浮き彫りにした。土砂崩れがいつ起きるか分からない場合でも、遠隔操作によりオペレーターが離れた安全な場所から作業ができる。コマツは建設現場や災害復旧現場の使用を想定した「スマートコンストラクション モビリティーオフィス」を試作。アウトドア仕様の自動車に衛星通信対応の遠隔操作システムを実現した。自動化ダンプの管制機能を搭載したリモートオフィスとして危険が伴う重機作業を無人操作するコックピットの役割を果たす。コマツは「日本列島は災害多発で、将来はますます需要が増える」とみている。
電動化・水素電池軸に開発 20トンショベル、急速充電カギ
DX対応と並んで見落とせないのが、GX対応の動きだ。その手段として最も一般的なのがリチウムイオン電池(LiB)を搭載して稼働する電動ショベルだ。だが、電動ショベルはディーゼルエンジン車と比べ価格が高い上、建設現場での充電インフラの整備が課題にある。さらに水素燃料電池は国が水素インフラに力を入れていることから、政策の後押しもあり、今後、GXの有力な手段になる可能性もある。
電動ショベルはボルボ・グループ・ジャパンが、日本市場で20トンショベル「EC230エレクトリック」を発売した。20トンクラスは日本では最も需要が多く、競争も激しい。この時期に20トンクラスを投入した理由について、同社アジア担当のアム・ムラリドハラン氏は「国や企業がスピード感を持って環境対応に取り組み始めているため」としている。欧州や米国ではすでに発売済みで、日本でこうした先行メリットを生かす考えだ。急速充電設備により1・5時間で充電し、稼働時間は5時間。国交省のGX建機にも認定を申請中という。コマツとキャタピラーも20トン電動ショベルを開発済みだ。
電動ショベルと並ぶカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の切り札と目されるのが水素燃料電池。コベルコ建機は水素燃料電池ショベルの研究を21年から始め、23年3月に13トンクラスの試作機を開発。広島事業所(広島市安佐北区)で基礎評価を続けてきたが、より建設現場に近い環境で実証を行うため、神戸製鋼所の高砂製作所(兵庫県高砂市)に専用施設を24年度中に整備。稼働のネックだった水素供給インフラを整えることで実用化研究を加速する。
現場の実情把握、生成AI活用も
人手不足を背景とした建機の自動運転や遠隔操作のDX対応、排ガスやCO2排出量削減を目指すGX対応はこれまでも建機各社が研究してきた。ここにきて取り組みが加速しているのは各社の研究や試作機の実証実験が進んだほか、建設現場の実情を建機メーカーが把握し始めたことも見逃せない。
建機の稼働データや稼働台数、現場の3Dデータで諸数値を入力すれば施工計画や自動施工はある程度は可能だろう。ただ、実際の建設現場は天候などによって環境が刻々と変化し、ぬかるんだ土か硬い岩盤かコンクリートかといった違いがある。熟練のオペレーターなら現場の状況を踏まえ「雨で地盤が軟らかいから掘削は抑えめにしよう」などの修正ができる。だが、新人のオペレーターや自動施工の場合、その実情を無視して仕事を進めれば、工事のやり直しになりかねない。
現場で必要となる建機台数や作業員の数はベテランと新人では大きな違いがある。こうした「誤差」を現場の実証実験によって修正し、蓄積データから学習してレベルアップするためにAIを活用する方法もある。だが、建設現場は千差万別だけに体験学習では限界があるのも事実だ。
住友建機はこの現状を打開するため、自動施工や遠隔操作に生成AI「チャットGPT」を活用する研究を始めた。「現場で初めて遭遇する課題に、建機が自分で考えて対応できるマシンになれば」(三觜〈みつはし〉勇社長)と期待する。日立建機は後付けのICT建機マシンガイダンスや、電動ショベルの可搬式充電設備に力を入れる。先崎社長は「客の建設ユーザーには手持ちの建機をいつまでも使いたい要望が多い。新商品を売ってもうけるでなく、客の課題解決に寄り添って一緒に考える発想が大切」という。
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