建物は老朽化・住人は高齢化…急務のマンション「2つの老い」対応に必要な視点
適切な修繕積立金確保カギ
マンションをめぐる「二つの老い」への対応が急がれる。建物の老朽化と区分所有者の高齢化だ。国土交通省は2042年に築40年を超えるマンションは445万戸で、22年時点の約3・5倍になるとみる。こうしたマンションは世帯主の半数が70歳以上で理事会の担い手不足も深刻。国は管理規約や建て替え要件の見直しなどを進める。区分所有者が責任を持って管理するのが基本だが、社会の高齢化や空き家問題が顕著になる中、マンションを社会資本として考える視点も必要だ。(編集委員・板崎英士)
管理不全の老朽化マンションに手を打たなければ最悪の場合、廃虚となってしまう。税金を投入し解体を余儀なくされるケースもある。そうしないためには計画的な管理と修繕が必要。だが18年度に国交省が行った調査で「修繕積立金が足りている」と回答したマンションは3分の1だ。
積立金が不足する理由は、業者が新築販売時に売りやすくするために低く設定し、その後も適切な値上げが行われないためだ。また最初の大規模修繕を管理会社や設計コンサルタントに任せた結果、談合などで高額になり、そこから積立金が不足するケースも後をたたない。国は19年に異例の注意喚起を出したものの、これらは民間契約であり、発注側の管理組合に知識がなければ太刀打ちできない。マンション管理士などの第三者を使うなどの対策も必要だ。
国交省は23年秋の「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」の取りまとめを基に、標準管理規約や管理計画認定基準、ガイドラインの見直しなどを進めている。法務省は老朽化マンションの建て替えの意思決定を容易にする区分所有法の改正を目指しているが、今国会には提出されなかった。
国交省は理事会の担い手不足に対し、外部専門家に管理を任せ、住民が監査を行う方式も提案する。また修繕積立金は将来の修繕に必要な基準額を月額で算出し、新築販売時には最小0・6倍まで、期中の値上げは最大1・8倍で収まるよう計画的な設計を指南する。
ただ、こうした枠組みを作っても区分所有者の意識が変わらない限り効果は望めない。例えば修繕積立金の変更決議は、総会出席者の過半数の賛成で決まる。100戸のマンションで問題意識を持つ住民が活発に議論しても、出席しない51戸の委任状で承認される。もし悪意のある管理会社が外部専門家として管理者を務めていれば、総会を誘導して修繕積立金を増額し関連会社に割高な工事を発注するなど、利益相反行為が行われる危険性がある。こうした事態を防ぐ対策も必要だ。
欧州では石造りの集合住宅には数百年の歴史があり、街並みを形成する重要な社会資本とみられている。それでも区分所有者の管理意識の低さが課題で、国連の欧州経済委員会は19年に「共同住宅の所有権と管理に関する指針」を出した。所有者の責任を明確にした上で持続可能な集合住宅を基礎とする都市政策を指南する。
わが国の分譲マンションの歴史は70年弱。老朽化した危険なマンションの建て直しは喫緊の課題であり、建物の長寿命化も焦点だ。こうした経済的な視点に加え、マンションの公共性を鑑みて、持続的な街づくりの中でどう生かしていくのか、教育、文化など幅広い観点で議論する必要もあろう。