ニュースイッチ

空飛ぶクルマ・ペロブスカイト太陽電池…産業創出の契機に、大阪万博で輝く次世代技術

空飛ぶクルマ・ペロブスカイト太陽電池…産業創出の契機に、大阪万博で輝く次世代技術

万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開催(会場イメージ、2025年日本国際博覧会協会)

2025年大阪・関西万博の開幕まで1年を切った。企業がさまざまな先端技術を会場で披露する「未来社会ショーケース事業」は目玉の一つ。スマートモビリティやデジタルなど6分野あり、展示・実証には空飛ぶクルマや脱炭素、ロボットなどをテーマにプロジェクトを展開する。新たな産業創出の契機とすべく、企業などは会場での実装に向け技術の開発や実用化を進めている。

未来社会ショーケース事業

【空飛ぶクルマ】国産機「スカイドライブ」披露

次世代の移動手段として期待される「空飛ぶクルマ」を社会実装できるか―。大阪・関西万博はこの試金石となる。同万博では複数のメーカーの空飛ぶクルマが実際に運行し、会場の内外を結ぶ計画だ。空中を自由自在に移動するという人類の夢の実現へ、大きな一歩を踏み出せるかが注目点だ。

ANAホールディングス(HD)や日本航空(JAL)、丸紅、スカイドライブ(愛知県豊田市、福沢知浩社長)は電動垂直離着陸機(eVTOL)で、万博会場の一部区間の移動を担う。

ANAHDは米ジョビー・アビエーション、JALは独ベロコプターの機体を活用する。いずれも複数の回転翼(ローター)で揚力(浮き上がる力)と推力(前進する力)を得て飛行する機体で、1基のローターで飛行する従来のヘリコプターよりも機体を高度に制御できる。ジョビーはローターの羽根の数や形、半径などを工夫して静音性を高めており、米航空宇宙局(NASA)と協力して騒音レベルを調査している。

丸紅は業務提携先の英バーティカル・エアロスペース・グループが開発するeVTOLの機種「VX4」を万博で運航する予定。パイロットを含む5人乗りの機体で、開発完了時の最高時速は325キロメートルに達する。26年には量産が可能な型式証明の取得を目指す。

次世代の移動手段として期待される「空飛ぶクルマ」(スカイドライブ)

スカイドライブは開発中の国産商用機「スカイドライブ」を披露。12基のモーター・ローターで駆動し、最大速度は時速100キロメートル、航続距離は15キロメートル、操縦士を含め3人が搭乗可能だ。製造に向けても、製造子会社のスカイワークスを設立し、スズキと協力体制を整える。24年春ごろにも製造を開始し、最大年間100機を生産する。

空飛ぶクルマの運行は機体だけでなく、離着陸場である「ポート」の整備も重要になる。万博会場内に置く空飛ぶクルマのポート運営はオリックスが担う。これまで空港や不動産運営などの事業で培ったノウハウを活用する。空飛ぶクルマの充電設備の整備で関西電力とも連携する。

空飛ぶクルマのポートを手がけることで、将来は運営する空港や不動産の価値向上、レンタカービジネスとの連携、関連するメーカーとの関係強化などにつなげることができるとみる。

【環境配慮コンクリ】建設業界のCO2排出量削減

CO2排出量を7割削減したCUCO―SUICOMドーム(イメージ)

ゼネコン各社は建造物や地盤改良工事に環境配慮型コンクリートを活用し、二酸化炭素(CO2)排出削減につながる技術を広くアピールする。これらの技術の社会実装を実現し、全産業の約4割を占める建設業界のCO2排出量削減を進める狙いがある。

鹿島は製造時や現場施工時などで発生するCO2排出量を従来に比べて7割削減可能なコンクリートを使った「CUCO―SUICOMドーム」を建設する。会場内の西ゲート広場付近で、環境教育向けの展示施設として使われる予定。

鉄筋コンクリート造りで、高さ5・45×幅23×奥行き18メートルの楕円(だえん)形。低炭素型コンクリートと、CO2を吸収・固定して固まるカーボンネガティブコンクリートを組み合わせる。

一方、竹中工務店はパビリオン「三菱未来館」の地盤改良工事の一部に新工法「CUCO―CO2固定地盤改良」を適用した。コンクリート解体材から再生した微粉を炭酸化したCO2固定微粉を使い、CO2排出量を従来工法に比べ約5%低減した。今後は、地盤改良体の強度やCO2固定量の調査に活用。液状化抑止などに使う地盤改良への適用を目指す。

【次世代太陽電池】日本の再生エネの切り札

積水化学が開発中の「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」

日本の再生可能エネルギー拡大の切り札とされるのが、次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」だ。積水化学工業が開発中で同万博で紹介する。西ゲート交通ターミナルのバスシェルターに設置し、夜間の発光ダイオード(LED)照明用の電力として活用する予定だ。

積水化学が開発を進めるフィルム型ペロブスカイト太陽電池は柔軟で軽く、既存の太陽電池では難しい外壁や耐荷重の小さい屋根などにも設置できる点が特徴。従来の太陽電池の設置が困難だった場所への設置が可能になり、再生エネの普及拡大やカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に大きく貢献することが期待される。

さらに万博では他のパビリオン出展者などへのペロブスカイト太陽電池の提供も検討しており、今後、協議するという。積水化学は25年の事業化を目指しており、万博を契機に新たな電力創造の形を提案し、同電池の社会実装を前進させる。

【水素発電】LNG混焼準備

大阪・関西万博ではクリーン水素を活用した水素発電の実証も検討している。脱炭素技術の研究開発から社会実装までを支援する、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金」で、関西電力が水素を燃料として発電する技術の実証に取り組んでいる。現在は兵庫県姫路市の火力発電所で、液化天然ガス(LNG)と水素の混焼発電実証に向けた準備を進めており、同社はこの電力を万博会場に送りたい考えだ。会場では、水素発電に関する展示も計画されている。新たなエネルギーである水素を活用する未来が見えてきそうだ。

【ロボット】自動で運搬・警備

ロボットが活躍する未来社会の姿も描く。会場全体を使い、次世代のさまざまなロボットを実装、実証する「ロボットエクスペリエンス」を実施する予定だ。トラック運転手の不足で引き起こされる「2024年問題」をはじめ、物流・運送業界では人手不足などの課題解消にロボット技術の活用が期待されている。万博では自動配送ロボットのほか、備品などの運搬や警備などの分野でロボット活用を見込んでいる。

日刊工業新聞 2024年04月22日

編集部のおすすめ