半導体産業に特化でファイナンス、三菱UFJ銀行が立ち上げた新組織の全容
関連企業にも資金需要
三菱UFJ銀行は半導体産業に特化したファイナンスに乗り出す。4月に半導体専門の組織を立ち上げ、本部や全国の支店の営業担当と連携しながら融資案件などの組成に動いている。台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に工場を建設するなど半導体関連の国内投資は活発だ。半導体メーカーだけでなく装置、材料などの関連産業の資金需要が高まっている。サプライチェーン(供給網)全体に目配りした資金支援を推進する。(編集委員・川口哲郎)
三菱UFJ銀は4月初旬に「半導体バリューチェーン推進室」を設置した。単独のセクター(業界)を対象にした組織は同社でほとんど例がないという。同部署の中野慶三郎室長は「半導体産業の知見を深く持った人材を擁し、業界特有のリスクに対応したソリューションを提供していきたい」と語る。
メンバーにプロダクト担当がおり、マーケティングの初期段階から連携して新しいプロダクトやソリューションの創出を目指している。各地域を担当する支店とも連携し、既存案件の拡大や新規案件の獲得に動く。
国内半導体産業は目下、大型の投資案件が熊本と北海道の2カ所で進んでいる。半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手のTSMCが熊本県菊陽町に工場を完成し、第2工場の建設も予定する。北海道千歳市ではラピダス(東京都千代田区)が最先端半導体の工場を建設中で、2025年から一部稼働を目指している。
中野室長は注力分野について「半導体産業のバリューチェーンを構築する上で九州と北海道の取り組みが中心になる」と話す。「特にサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性がある部分をうまく解決していきたい」(中野室長)という。
例えば炭化ケイ素(SiC)など新しい半導体材料が不足しており、材料の能力増強投資のリスクを軽減する資金支援のあり方を検討する。パワー半導体の老朽化設備の問題も解決に乗り出す。ラピダスが生産拠点を置く北海道千歳市は物流やホテルなどのインフラがまだ十分に整っていないため、地域のインフラ構築支援にも力を入れる。
同部署が中心となって社内の半導体産業に関わる担当者などのスキルアップにも取り組んでいる。教育プログラムを製作し、社内のeラーニングに活用。半導体産業への関心を深めるため、展示会のツアーも企画する。
三菱UFJ銀はラピダスに3億円出資しており、3メガでは唯一の出資だ。半導体産業へのコミットメント(関与)は強く、今後も強化する方針を打ち出す。24年度にも半導体産業に即したプロダクトやソリューションを立ち上げ、提供する見込みだ。「『半導体に関する悩みだったら三菱UFJ銀に相談してみよう』と顧客から思って頂けるような姿を目指していく」(同)とする。
日本の半導体出荷額は18年から減少していたが、21年から増加に転じて22年は前年比36・9%増の1兆145億円と伸びている。市場拡大に伴い、関連企業の設備投資も増加傾向だ。日本政策投資銀行の調査では、国内設備投資(全産業)は23年度に前年比20・7%増の大幅増の見込みで、半導体の生産能力増強が素材などにも波及している。
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