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若手行員がスタートアップで武者修行、三菱UFJ銀行が人材育成強化

若手行員がスタートアップで武者修行、三菱UFJ銀行が人材育成強化

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三菱UFJ銀行がスタートアップをはじめとした外部企業への出向を通じて人材育成を強化している。出向者は銀行ではできない経験を積み、成長の糧を社内に還元する狙いだ。若手から中堅行員まで、幅広い層を対象にしている。「挑戦して乗り越えることによる達成感や胆力を身につけてもらいたい」(同社人事部)として、人材育成のアプローチの一つに位置付ける。(編集委員・川口哲郎)

三菱UFJフィナンシャル・グループのおもな公募制度

鳥羽祐介氏は入行8年目の2022年度から、京都大学と近畿大学の共同研究で生まれた技術を基に水産物の品種改良を手がけるスタートアップのリージョナルフィッシュ(京都市左京区)に出向している。現在は次期予算の作成や株式公開準備といった管理業務携わる。

三菱UFJ銀行では法人営業のキャリアを積んできた。取引先の融資に携わる中で事業の一部分しか関われない現状を課題視し、「法人営業の提案の幅を広げたかった。もう一つは自分の強みとなるものを身に付けたかった」(鳥羽氏)と制度に応募した動機を語る。

出向開始から2年目に入り、「事業会社がどのような意思決定をしているか、中に入ってわかる事が多い」(同)と気付きを得ている状況だ。特に社長に接して学ぶところは大きく、「銀行はリスクを取ることに慎重になりがちだが、スタートアップはリスクを取ってどんどん実現する循環で成り立っている」(同)と実感する。今後は「経営的な視点を身に付け、銀行の業務に生かしていきたい」(同)とキャリアの方向性も明確になってきた。

三菱UFJ銀行はスタートアップ企業へ期限付きで出向する制度「オープンEX」を19年度に始めた。主に取引先企業から10社程度を出向先として選定。公募により選ばれた年間20人程度が出向先で2年程度働き、戻ってくる仕組みだ。

人事部の関舎直博上席調査役は「苦しいこともつらいこともあると思うが、乗り越えて見えてくる世界がある。『武者修行』と我々は思っている」と同制度の位置付けを語る。今後も継続的に実施する方針で、「企業カルチャーを変えるための一番の起爆剤だと期待している。『三菱UFJ銀はここがおかしいはここがおかしい』と言える人材になってもらいたい」(関舎上席調査役)という。

三菱UFJフィナンシャル・グループは社員が自発的に考え、行動する「挑戦とスピード」のカルチャー醸成を大きなテーマに掲げる。「オープンEX」以外にも公募制度がある。社員の事業アイデアを募り、優れたアイデアの事業化を支援する新規事業創出プログラム「SparkX(スパークエックス)」は、23年度に応募総数が402件に上った。

最終審査会では亀沢宏規社長らが審査員員となり、プレゼンを経て最優秀のチームが選ばれた。表彰されたチームは現状の配属先の仕事を離れ、アイデアの事業化に専念できる。今後はシニア層の社員が蓄積したスキルを活用するための仕組みなども検討している。

「みなが手を挙げ、『自分たちでつくろう』と言ってもらえるようなカルチャーにしていきたい」(関舎上席調査役)とさまざまな仕掛けを通じて多様な人材を育成し、組織を活性化させたい考えだ。


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日刊工業新聞 2024年01月30日

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