世界初の商用アンモニア燃料船も就航。「働く船」が脱炭素化へ動き始めた
日本発の技術、クルーズも
内航船や港湾内で働く船が脱炭素化へ動き始めた。総トン数20トン以上の船では国内初となる水素燃料電池船が運航を開始し、7月には世界初の商用アンモニア燃料船が就航する。水素とアンモニアは燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出せず、ゼロエミッションを実現できる。一般の人にも次世代船技術をアピールする場になりそうだ。(梶原洵子)
水素燃料電池を搭載した洋上風車作業船「HANARIA(ハナリア)」が10日に北九州市で就航した。同船は水素と酸素を反応させて発電する燃料電池を主電源とし、リチウムイオン電池(LiB)とバイオディーゼル発電機を補助電源とするユニークな構成だ。水素供給が途絶えても航行できる実用性の高い水素燃料電池船となっている。
同船は日本財団のゼロエミッション船プロジェクトの一環で、MOTENA―Sea(モテナシー、東京都千代田区)などが開発した。水素タンクはトヨタ自動車の技術協力を受けた。全長は約33メートル、総トン数は248トン。発電機を使わないモードでは「とても静かに航行できる」(プロジェクト関係者)。
モテナシーは同船を洋上風力発電施設への人員輸送に加え、クルーズ事業にも活用する。未来を担う子どもたちなどにも体験してもらいたい考えだ。
日本財団では2026年度に水素エンジン搭載船の実証を行う予定で、「日本の技術力で世界の船のゼロエミッション化をけん引したい」(海野光行常務理事)と意気込む。
日本郵船は、世界初の商用アンモニア燃料船となるタグボート「A―タグ」を7月に横浜港(横浜市中区)で就航する。港湾内で船舶の着岸・離岸の補助や救難などを行う。毒性があるアンモニアを扱うため、運航を担う新日本海洋社(同西区)の加藤毅社長は、「生命に関わることを肝に銘じて取り組む」と気を引き締める。
A―タグに続き、日本郵船は26年の完成を目指してアンモニア混焼エンジンを搭載した大型の外航船の開発を進めている。外航船には発電機としてA―タグのエンジンを複数台搭載する計画で、A―タグはアンモニア燃料や同エンジンの取り扱いを習熟する場としても期待される。
電気推進(EV)タンカーは水素燃料電池船などより一足早く、旭タンカー(東京都千代田区)の「あさひ」が22年に、「あかり」が23年に運航を始めた。湾内で船舶への燃料供給を行う。大容量のLiBを搭載し、推進だけでなく荷役や離着桟、停泊中の動力も全て電気でまかなう。
また、海外ではノルウェー海運大手のフッティルーテンが電気と風の力で動くクルーズ船「シーゼロ」の開発プロジェクトを進めている。主にノルウェー沿岸での運航を想定した船舶で、太陽光発電パネル付きの帆を持つ特徴的なデザインが提案されている。多様なゼロエミ船の開発が進むことで、一般の人からも認知され、普及につながることが期待される。