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算定ルール30年ぶり変更、鉄道運賃どう変わるか

算定ルール30年ぶり変更、鉄道運賃どう変わるか

運賃を上げやすくすることで、インフラ維持に必要な中長期視点の投資を促す(イメージ)

中長期の設備投資促す

鉄道の運賃を決めるルールが、約30年ぶりに変わった。運賃を決める根拠となる「総括原価」へ設備投資によるコスト上昇分をより柔軟に組み入れられるようになった。運賃を上げやすくし、インフラ維持に必要な中長期視点の投資を促す狙いだ。コロナ禍を経て鉄道事業の大本を支える仕組みが問い直されている。(梶原洵子)

※自社作成

国土交通省は総括原価の算定方法を見直し1日に施行した。総括原価とは、原価に適正な利潤をのせたもので、鉄道事業では運賃による総収入が総括原価を上回ってはならないのが基本ルール。このルールを基に各社の運賃の上限は審査され、国土交通大臣によって認可される。

見直しのポイントの一つは減価償却費の算定方法だ。これまで原価に計上できる設備投資の減価償却費は将来3年分だったが、今後は3年を超える期間分を考慮して計上が認められる。老朽化設備の更新のうち、国土強靱(きょうじん)化などの観点で重要な工事は条件付きで取り壊す設備の減価償却費を前倒して原価に計上できる。償却期間が60年など長期に及ぶコンクリート構造物などが想定される。

また、災害で壊れた施設の修繕費用は特別損失に計上したものも原価への計上に当たって考慮する。「中長期の鉄道の持続性を考えて必要なコストを積めるようにしたい」(国交省鉄道局担当者)。

見直しのきっかけはコロナ禍だ。コロナ前の鉄道各社は堅調な業績を背景に、新たな防災対策や安全対策などで償却費を上回る設備投資額を行っていた。だが、コロナ禍で経営状態が悪化し、これが難しくなった。会計ルールや社会構造の変化にも対応する必要性も高まっていた。

JR東日本は以前から国にルールの見直しを訴えており、新ルールの下での運賃改定を進めたい考え。同社は86年以降、消費税増税による値上げはしたが、原価の見直しによる値上げはしていない。新ルールに基づく算定などの作業は膨大なため、実行には「2年くらいかかるだろう」(JR東担当者)という。値上げ規模が見えてくるのはまだ先だ。

鉄道業界からはバスや航空会社と同じ届出制運賃を求める声もあったが、「鉄道は地域ごとの独占性が強い」(鉄道局担当者)ため見送られた。届出制は認可制に比べ手続きの負担が軽い。運賃設定を柔軟にでき、需要に応じて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」を大胆にやることもできる。

人口減少が進む中、激甚化する災害への対策や高度な防犯技術、脱炭素対応など、鉄道業界に求められるものは増えている。公益性を維持しながら、どう鉄道網を維持していくのか。多くの人に影響する運賃の変化からも考える必要がある。

日刊工業新聞 2024年04月10日

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