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衛星不具合地上から発見…三菱電機、光学技術を開発

衛星不具合地上から発見…三菱電機、光学技術を開発

遠藤主席技師長は人工衛星の運用状態などを地上設備から観測する技術の確立に意欲を示す

三菱電機は情報通信分野の研究開発拠点である情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市)で、宇宙空間の観測技術の開発を進めている。人工衛星や宇宙デブリ(ゴミ)を地上から効率よく観察可能になれば、人工衛星の不具合などを地上から判断でき、宇宙空間の安全な利用の促進に貢献できる。人工衛星事業で培ってきた強みを生かし、衛星―地上間の光通信技術の確立も図っている。(編集委員・小川淳)

宇宙空間の利用が活発化する中、人工衛星や宇宙デブリの数も増加しており、宇宙での安全確保が今後の大きな課題となることが予想される。三菱電機では、人工衛星の運用状態や不具合などを地上設備から観測する技術の確立を進めている。

情報技術総合研究所構内の大船宇宙空間観測所は2022年に設置され、1年の動作試験の実績を積み上げた後、本格的な運用を開始した。光学望遠鏡は民生品で計算機制御の2種類を使用しており、夜間の無人運用にも対応している。

情報技術総合研究所の遠藤貴雄主席技師長は「我々は研究所なので(人工衛星や宇宙デブリの)観測の事業化ではなく、(将来に備えて)技術をまず作っている」とした上で、「三菱電機は望遠鏡なども製造しているので、必要な時に観測技術装置の使い方を知っていれば、(望遠鏡を)作るときにも有利に働く。そういう技術を研究所として獲得していきたい」と語る。

三菱電機が情報技術総合研究所構内に設置した大船宇宙空間観測所

高度約400キロメートルを飛行する国際宇宙ステーション(ISS)を観測したところ、同研究所の立地では大気の条件が悪いにもかかわらず、計算機の画像回復技術を適用し、姿勢を変えながら遠ざかる様子を観測できたという。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月着陸実証機「SLIM(スリム)」の観測では、高度約3万6000キロメートルの静止軌道より遠方に位置する宇宙機を捉えることにも成功している。

遠藤主席技師長は、「地球周回から月探査まであらゆる宇宙機の安全利用に貢献する高度な光学観測技術を開発していく」と展望する。三菱電機は人工衛星の開発から運用まで行っているなど「人工衛星のことをよく知っているメーカー」であり、観測技術を確立すれば「人工衛星の不具合を見つけることに使えるのでは」とグループの総合力に期待している。

また、23年1月にISSから放出された超小型人工衛星「オプティマル・ワン」の追尾観測では、わずか10センチ×10センチ×30センチメートルの物体の太陽光による光度変化を捉えることに成功した。今後、光通信によるレーザー光の受信を目指しており、実現すれば従来の電波より高速・大容量な衛星―地上間の光通信技術の開発に役立つ。

遠藤主席技師長は、光通信のネットワークが地上や宇宙空間だけでなく、宇宙と地上の間でも広がることで、より情報のやりとりが密になり、「人類の宇宙進出に貢献できる」と見据える。


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日刊工業新聞 2024年04月02日

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