実験手技をロボット化、東大などが構築したデジタルツインの効果
東京大学の原田香奈子准教授と英マンチェスター大学のマルケス・マリニョ・ムリロ講師らは、科学実験用ロボットのデジタルツインを構築し公開した。シミュレーション中で微細な手技が求められる実験を繰り返せる。数が限られる実験動物やヒトの生体試料などを用いた実験手技をロボット化できるようになる。
鉗子(かんし)やドリル、ガーゼなどを操る4本のロボットアームが試料を囲むシステムを構築した。アームはそれぞれ円周レールの上に配置されており、試料に腕を伸ばす方向を変えられる。中央の顕微鏡カメラで観察しながらアームを遠隔操作する。
このロボットシステムを二つのシミュレーターで再構築した。ロボットの制御シミュレーターでは手技の動作を生成できる。描画性能の高いシミュレーターでは手技の動画データを作成できる。データを人工知能(AI)に学習させて自律的に実験手技を生成する。
シミュレーターではカメラの視点を自由に設定でき、失敗も繰り返せる。マウスの頭蓋骨に穴を空けて細胞を移植する実験などを想定する。生体試料などの数の限られる実験ではAI用のデータを集めるための失敗は繰り返せない。データ量を確保できず、AI利用を妨げていた。
今後、実験手技を助けるAIを開発する。手技ごとに最適な自動化率やAI補助の在り方が変わるがシミュレーターで検証できる。またシミュレーターを公開したため、幅広い研究者が実験手技の自動化に取り組める。開発した実験手技プログラムは東大の実機で実行可能。国内外との共同研究を進める。
内閣府・科学技術振興機構(JST)のムーンショット型研究開発事業で開発した。
日刊工業新聞 2024年2月20日