トヨタ支援で事業領域を再構築、ダイハツ再生へ待ついばらの道
ダイハツ工業の新たな経営体制が固まった。親会社のトヨタ自動車から井上雅宏氏を社長に、桑田正規氏を副社長に迎え入れ、現場を重視した経営を実践する。トヨタとともに風土改革や事業領域の再構築を図る。型式指定の申請業務で174の不正を犯したダイハツ。トヨタの支援を受け、日本の暮らしに密着した軽自動車を提供する企業として信頼を取り戻せるかが焦点となる。(総合1参照、名古屋・川口拓洋、同・増田晴香、大阪・田井茂、八家宏太)
現場と対話、笑顔取り戻す
「まず、ダイハツが取り組まなければならないのは、国土交通省に報告した再発防止を実行していくこと」―。13日の会見でトヨタ自動車の佐藤恒治社長は強調した。
ダイハツは9日、認証試験不正の再発防止策をまとめた報告書を国交省に提出した。この再発防止策の一つが企業風土の改革。経営からリーダー、現場の一人ひとりまで意見を言いやすく笑顔で仕事ができる風土の醸成を目指す。佐藤社長も「時間のかかることだろうが、現場で会話しながら、正しさを取り戻す必要がある」と社内のコミュニケーションを重視する。
ダイハツ次期社長に井上氏を任命した理由も、現場と対話を繰り返した経験や実績を重視した。佐藤社長は「新興国で言葉の壁を乗り越えながら経営してきたリーダー。ダイハツでも、現場で一緒に向かうべき方向を考え実践してくれる」と期待する。
井上次期社長も社員や仕入れ先、販売店などステークホルダーの声を聞くことを着任後の最初の仕事に挙げる。「社員と直接会話し、第一線の販売店のセールスマンやメカニックの声を聞き、ダイハツの再生にチーム一丸となって取り組む」と決意を示す。
風土改革のほかにダイハツの再生に向けては、事業領域の変更も重要な要素だ。海外では特に東南アジアで、トヨタグループにおいて小型車戦略を担っていたが見直す。トヨタの佐藤社長は「軽自動車に軸を置いた会社と定める。海外事業は企画・開発・生産をトヨタからの委託に変更する方向で検討している」と説明する。ダイハツの不正問題では、事業領域が拡大する中でも短期開発を推進したため、現場の声を経営陣が吸い上げきれず、業務を続けたことが不正の要因の一つとなった。
ダイハツでは立て直しに向け、事業領域を絞り、良品廉価な車づくりができる範囲を定める。「ダイハツの強みは二つある。最小単位にこだわったモノづくりと、販売店のネットワーク」と佐藤社長は説明する。生産や購買を原単位で行うモノづくりと、約3万の販売店を持つネットワークを生かし、顧客の声を生かした車づくりを取り戻す。
海外での事業分担について佐藤社長は「どういう分担が最適かについて、プロセスごとに新体制のメンバーと議論したい」と話し、4月にも事業戦略を説明する機会をつくる。「企業経営はマラソン。短期的に開発のペースを落としても、長期な視点で事業を考える必要がある」とした。
井上次期社長は「商品を次々と出すことが、必ずしも競争力につながるわけではない」と指摘。「必要なタイミングで切り替わることが大事。商用車と乗用車のサイクルも違う。サイクルの組み合わせやベストミックスを考える」と方針を話した。
ダイハツは13日、トヨタがいすゞ自動車などと共同出資する商用車企画子会社のコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT、東京都文京区)を脱退した。
経営・風土・モノづくり改革の3つの誓い
「やっと仕事ができて、うれしい」。ダイハツの50代男性従業員は12日、生産を再開した京都工場(京都府大山崎町)に出勤する途上で控えめに喜びを語った。26日からはダイハツ九州(大分県中津市)も稼働する。国交省はダイハツの認証不正で全車種の生産・出荷停止を指示後、15車種について安全性を確認し停止を解除した。12車種の停止処分は残るが、3月1日以降の全面再稼働に向け、ダイハツはそろりと助走を始めた。
しかし、不正発覚前の販売や生産を取り戻すには、いばらの道が待っている。ダイハツは9日に国交省へ不正再発防止策を提出し、経営、企業風土、モノづくりを改める「三つの誓い」を宣言した。新たな経営体制で防止策をやり抜き、顧客や取引先から信頼を回復しなければならない。大手部品サプライヤー幹部からは「我々がトヨタ向けの仕事でしくじっても、ダイハツのようには助けてもらえない。ダイハツから仕事が減っても、ライバル車のスズキから仕事が増えるだけだ」と突き放す声も挙がる。
親会社のトヨタの意向を最優先し体力に見合わない無理な開発と生産を続けた歴代の経営と、上に物が言えない閉塞(へいそく)した現場。防止策には経営者と従業員の法令順守教育やゆとりある開発期間への延長、法規認証の大幅な人員増などを盛り込んだ。だが、トヨタ子会社となる前の1989年から不正を認定された体質改善は容易でない。ダイハツは2016年に上場を廃止し市場の監視による改革圧力も働きにくい中、第三者も入れる防止策の実効性が問われる。
ダイハツ車を待ち望む顧客や取引先から強まる販売再開要請が救いであり、再生への期待を裏切ってはならない。