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不正相次ぐトヨタグループ、原点回帰へ策定した新ビジョンの役割

不正相次ぐトヨタグループ、原点回帰へ策定した新ビジョンの役割

トヨタグループビジョン説明会で記者の質問に答える豊田会長

トヨタ自動車をはじめとするグループ17社が共通理念を見つめ直す。トヨタグループには創業の精神をまとめた「豊田綱領」などの理念があるが、時代の変化や関連会社の拡大で従業員に浸透しにくくなってきた。そのことが足元で相次ぐグループ会社の不正の遠因になったとの危機感がある。また自動車の技術革新が進み事業環境は激変している。グループで新ビジョン「次の道を発明しよう」を共有して原点回帰し、飛躍を目指す。(名古屋・川口拓洋、同・増田晴香)

豊田会長、変革をリード

「責任者として、グループの変革をリードする」―。30日、トヨタグループ発祥の地であるトヨタ産業技術記念館(名古屋市西区)で会見したトヨタの豊田章男会長は、日野自動車ダイハツ工業豊田自動織機などグループで相次ぐ不正が発覚したことに関し謝罪した上で、自らが責任者となりグループ各社を支援する姿勢を示した。

※自社作成

トヨタグループをめぐっては相次ぐ認証不正の発覚により、モノづくりに対する信頼低下が懸念されている。豊田会長はグループ各社が「やってはいけないことをやってしまった。自動車産業が発展し、グループ各社が成功体験を重ねていく中で、大切にすべき価値観や物事の優先順位を見失った」と認識を語った。新ビジョン策定の狙いについて「グループが進むべき方向を示し、次世代が迷ったときに立ち戻る場所をつくることが大切」と説明する。

豊田会長が責任者を務めると表明した背景には自身の経験がある。豊田会長が社長に就任する前、トヨタは「いいクルマ」よりも販売台数や収益を優先する傾向にあった。その結果、むしろ赤字に転落したり、大規模リコール(無料の回収・修理)問題が起こったりし、ステークホルダーの信頼を裏切ることにつながった。豊田会長は「現在のグループ各社は14年前の当時のトヨタと同じ状況」という。「14年をかけてトヨタをクルマ屋といえるところまで立て直した実績がある。今度はグループ各社の相談相手になれる」と責任者兼アドバイザーとして経験をフルに生かす意向だ。

車業界が100年に1度の変革期にある中、トヨタとて油断はできない(本社、愛知県豊田市)

豊田会長がトヨタを立て直す上で重視したのは「主権を現場、商品に戻す」ことだ。「どんな立場どんな出身であっても、経営に参画できるようにしたのが私なりのガバナンス(企業統治)」と掲げる。グループ各社でも同様に、主権を現場に戻すための取り組みを加速する。まずは6月に開催予定の株主総会への参加を表明。「ステークホルダーの立場から各社をみて、何を考え、行動するのかを意見交換したい」(豊田会長)と状況把握を進める。また各社に品質を担保する“とりで”となる「マスタードライバー」の設置を指示。商品コンセプトや役割・使命を語れる人材を充て、商品を重視し、顧客を大切にする企業風土の醸成につなげる。

あらゆる領域点検 「モビリティーカンパニー」に転換加速

30日にはトヨタグループ17社の会長や社長、現場のリーダーが出席し、新ビジョン「次の道を発明しよう」を共有した。グループの創始者である豊田佐吉翁の原点である「発明」の言葉を込めグループの出発点・再出発の旗印にする。分かりやすいビジョンにすることで、自ら考え動くことができる企業や風土を形成する。

※自社調べ

モノづくりで日本を代表する企業集団であり、世界トップの競争力を持つトヨタグループ。30日に発表した23年の世界販売台数は1123万3039台と過去最高を更新し、4年連続で世界首位となった。

盤石な事業基盤を見せる中、自動車業界はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)をはじめとした技術革新で大きく変わろうとしている。トヨタは車における移動の楽しさはそのままに、車の価値を拡大する「モビリティーカンパニー」への転換を目指す。グループもモビリティーサービスの関わり方を模索する。

グループで共有する新ビジョンには、生産現場、開発・管理部門などあらゆる領域で、新しいモノづくりに挑戦する意思を支えるという役割もある。

認証への認識不足、顕著―真因探り、改善・防止推進

ダイハツは認証不正を受け、衝突実験を実施した(「グランマックス」のトラックタイプ)

豊田会長が危機感を抱くもう一つの理由となっている、グループで相次ぐ品質不正。22年3月に日野自動車によるトラックやバス用エンジンの排出ガスや燃費に関わる性能試験での不正が明らかになった。その1年後となる23年3月にはトヨタグループの源流である豊田自動織機で、フォークリフト用エンジンの排ガス試験での法規違反が発覚。同年4月にはダイハツ工業において安全試験で不正が明らかになった。

各社に共通するのは認証業務への認識が不十分だったことだ。「認証不正というプロセスを分解すると三つの段階がある」と話すのはトヨタの佐藤恒治社長だ。佐藤社長によると、国の定める基準方法を満たすか確認するステージが一つ目であり、得られたデータの取り扱いが二つ目、三つ目は均一性(量産性)の保証だ。佐藤社長はグループの不正がこれらのステージのいずれかで行われたと認識し「認証制度の根幹に関わる問題であり、重く受け止めている。真因探り、改善・防止を進める」と語る。

また認証と開発が同一組織内にあり、けん制力が効かなかった点も共通する。佐藤社長は「なかなか手をつけられなかったところ。技術の高度化が進み業務負荷が高まるなかで、正しい仕事に対するバランスを崩してしまった」と反省点を挙げる。

現場と意思疎通、再徹底

豊田自動織機の不正では、外部有識者からなる特別調査委員会が「トヨタとのコミュニケーション不足」を指摘した。佐藤社長は「最前線の現場では手順書だけでは技術の移行が進まなかった。質問を気軽にできない状況があったのだろう」と推察し、「両者のコミュニケーションに改善するべき課題があった」との認識を示した。

豊田自動織機だけでなく、他のグループ企業とも丁寧な意思疎通を進めることを再徹底しながら「各社が専門性をもって、自動車業界の550万人のために、みんなで未来をつくる」と佐藤社長は話す。

日刊工業新聞 2024年01月31日

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