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世界で市場広がる「プライベート資産」、金融各社が強化急ぐ理由

世界で市場広がる「プライベート資産」、金融各社が強化急ぐ理由

プライベート領域では未上場株のほか、不動産やインフラ、農地、森林など実物資産も注目される(野村の投資先が運用する森林ファンドの森林〈ラオス〉)

金融各社が未上場株式やインフラ、不動産などのプライベートアセット(資産)領域の強化を急いでいる。株式など上場市場の価格変動の影響を受けにくく、一般的に高いリターンを期待できる特徴がある。これまで一部の機関投資家の運用に限られていたが、個人向け商品も相次ぎ投入されている。非上場化する企業の資金需要の受け皿や、スタートアップ成長資金の供給役として今後の市場拡大が見込まれる。(編集委員・川口哲郎)

分散先として注目、世界で市場広がる

プライベート資産市場は2010年代から拡大した。きっかけは08年のリーマン・ショックに端を発する世界金融危機だ。株式やヘッジファンドが軒並み暴落した中で、投資家は分散投資先としてプライベート資産に注目した。

野村証券の資料よる

米国では上場企業数が減る一方で未上場企業数が増えている。年間収益1億ドル(約143億円)超の企業のうち上場企業は15%未満だ。上場維持コストの回避や資金調達の多様化が背景にある。投資家にとって、未上場企業に投資しなければ広範囲にわたる収益機会を得られない状況だ。米国大学基金の運用資産内訳はプライベート資産が4割に達する。

日本でも上場廃止を選ぶ企業が増えている。企業買収の助言を行うレコフによると、23年に非上場化を目的にした経営者による企業買収(MBO)の件数は22年比42%増の17件で、金額は同4・8倍の1兆4153億円に上る。ベネッセホールディングス(HD)や大正製薬HDといった大型企業が自ら市場退出を選ぶケースが目立つ。

背景にあるのが東証による資本効率改善の要請だ。上場企業は改善計画の策定や開示を求められ、負担が増える。アクティビスト(物言う株主)の要求の高まりも一因だ。市場関係者は「上場維持のコストが見合わなくなり、非上場を選ぶ企業が増えている。今後もこの傾向は続く」と指摘する。

野村証券の資料を基に作成

プライベート資産は一般的に換金などの流動性に制限がある一方で、より高い収益を生む傾向にある。米ブルームバーグの調査によると、過去18年の運用リターンを比較して国内株式が約2・5倍、世界株式が約4・2倍となったのに対し、非上場株式は約14倍となった。

日本のプライベート資産市場は欧米に比べてまだ小さく、未上場株式市場規模は世界の2%にとどまる。ただ、未上場株式やプライベートデット(銀行以外の主体による融資)などの市場が広がる余地は大きい。政府は「資産運用立国実現プラン」を策定し、スタートアップへの成長資金の供給やオルタナティブ(代替)投資などの運用対象の多様化を重点施策に掲げる。

「個人」向け照準

国内証券各社はプライベート資産の拡充に動き出している。大和証券は世界最大級の代替投資を専門とするブラックストーンのファンドに投資する公募投信を設定した。中田誠司社長は「今後も個人が直接買えないようなものを間に入って証券化する」と語る。

SBIHDは米大手資産運用会社KKRと共同で24年3月末までに資産運用会社を設立する。KKRが開発した代替資産を24年度4―9月期中に提供する予定だ。

野村証券はブラックストーンなどのプライベート資産を取り扱う他、スパークス・グループと組んで国内スタートアップに投資している。23年秋からは資産や知識面で一定の要件を満たす個人投資家向けに未上場企業対象の私募ファンドを国内で初めて開始した。今後はプライベートデットや不動産、インフラといった投資機会をさらに広げる意向だ。


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