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「洋上風力」「CNP」…東日本にGXの波、新たな“特産物”の期待も

「洋上風力」「CNP」…東日本にGXの波、新たな“特産物”の期待も

Team Sapporo-Hokkaido設立共同記者会見に臨む(左から)鈴木直道北海道知事、秋元克広札幌市長、栗田照久金融庁総合政策局長(現長官)〈札幌市役所、23年6月23日〉

東日本に再生可能エネルギーや水素利活用などグリーン・トランスフォーメーション(GX)の波が押し寄せている。東北地域における陸上・洋上風力の推進や福島県、山梨県における水素利活用の加速、北海道でのGX投資に関する金融センター構想など、脱炭素化に向けた動きが本格化している。再生可能エネルギーを活用した工場誘致など、人口と産業の流出に悩んできた自治体にとり、地域創生の重要なツールになることが期待される。

GXの金融ハブ、北海道に投資呼び込む

札幌市を軸とする北海道が、国際金融都市実現に向けて動き出した。2023年6月に「Team Sapporo―Hokkaido(チーム・サッポロ北海道)」を立ち上げ、産学官金が結集して具体的な第一歩を記した。東京、大阪、福岡に比べて後発である札幌・北海道の戦略はGXに焦点を充てたことだ。再生可能エネルギーの賦存量では日本トップといわれる強みを武器に、GX金融都市実現へ弾みを付ける。

同チームに参画したのは経済産業省、環境省に金融庁を加えた政府グループを筆頭に三菱UFJ、みずほ、三井住友、日本政策投資の大手4行。ここに地元グループが結集。目指すべきポイントの明確化と政府への要望などをまとめ、八つのGXプロジェクト①SAF(持続可能な航空燃料)②水素③洋上風力関連産業④蓄電池⑤次世代半導体⑥電気・水素運搬船⑦海底直流送電網⑧データセンターを挙げた。

これらを実現するために、情報プラットフォームや再生エネの供給体制などを確立し、合わせてファンドとファイナンスの仕組み、人材の育成、情報発信などを整備する。北海道札幌GX・金融特区を設立し、世界的には今後10年間で150兆円超といわれるGXの官民投資を呼び込もうとのもくろみだ。

経産省などがまとめたデータによると、北海道で洋上風力発電が「将来的に有望な区域となり得ることが期待できる」とされた地域は石狩沖など計5カ所に上る。この先さらに時間が必要だが、いったんスタートすれば、相当量のエネルギー量確保が期待できる。

一方で難題もある。一つは前例の少ないGX投資のための仕組みを構築し、資金が還流するシステムを作る必要があること。北海道に進出する次世代半導体開発のラピダス(東京都千代田区)などとも関わってきそうだ。

地元勢も手をこまねいてはいない。北洋銀行は一連の発表前に頭取直轄の「成長戦略企画室」を設けた。トップ直轄の組織は同行初めてで「GXや半導体関連産業の経済効果を道内全域に波及させるにはスピードが大切」(安田光春頭取)と話す。北海道経済連合会でも同じだ。北海道企業による再生エネ事業への参入も重要なテーマに位置付け、藤井裕会長は「可能な限りの地産地消を実現したい」と話し、次のステップに目を向ける。

洋上風力、東日本に勢い

経済産業省・資源エネルギー庁によると電源に占める再生エネの構成比は20・3%(2093億キロワット時)。このうち最も多いのは太陽光発電(PV)で8・3%(861億キロワット時)で、風力発電、地熱発電、バイオマス発電と続く。PVが突出する一方、地熱とバイオマスの伸び率は低い。

こうした中、東日本で注目されているのが風力発電だ。日本風力発電協会(JWPA、東京都港区)によると22年末時点の風力発電の国内累積導入量は480万キロワット、2622基。22年の導入量は21年の1・6倍となり、大規模化も進んでいる。中でも洋上風力は先行して導入が進む諸外国の例から「大量導入」「電力が安価」「経済波及効果が大きい」とされ、政府も導入を推進している。

洋上風力発電などを想定した「再生エネルギー海域利用法」に基づく促進区域10カ所のうち8カ所、有望区域9カ所は全て、準備区域8カ所のうち4カ所が東日本地域。22年12月には秋田洋上風力発電(秋田県能代市)が能代港で国内初の大規模洋上風力の商業発電を開始。23年1月には秋田港でも発電を始めた。JWPAは50年に洋上9000万キロワット、陸上4000万キロワットの導入目標を掲げる。東日本地域は洋上風力発電の中心地になりそうな勢いだ。

脱炭素化に伴うカーボンプライシングなどのコスト上昇を考慮すると、メーカーにとってグリーン電力の確保は重要課題。他の再生エネも含めて、産業基盤の脆弱(ぜいじゃく)化に苦しむ東北・北海道などの地域が、グリーン電力を新たな“特産物”として活性化する起爆剤になるかもしれない。

カーボンニュートラル港、小名浜港で取り組み加速

国土交通省は港湾地域の脱炭素化推進のため、カーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進している。次世代のエネルギーである水素や燃料アンモニアの受け入れ設備の整備や、港湾荷役、船舶・車両のオペレーション、臨海部に集積した産業と連携した面的な脱炭素化を目指している。

CNPを目指す小名浜港

20年には小名浜港、横浜港・川崎港、新潟港、名古屋港、神戸港、徳山下松港などをCNPの形成地域に選定。各地域では検討会・協議会を重ねて具体化に向けて取り組んでいる。現在、全国各地の港湾がCNP化に向けた取り組みを加速している。

東日本地域では小名浜港、横浜港・川崎港、新潟港が先行してCNP化に着手。中でも小名浜港のある福島県は、東日本大震災からの復興の過程で世界最大規模の水素供給インフラ「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」が浪江町で稼働中。火力発電も立地し、水素・アンモニアの利活用の進展が期待される。

横浜港・川崎港は日本最大の消費地域を支える重要港湾。隣接する東京港を合わせるとコンテナ取扱貨物量は約7900万TEU(TEUは20フィートコンテナ換算)で国内最大だ。同地域には製造業やエネルギー産業など幅広い産業が集積する。

このほかの各地の港湾も、CNPを目指して活動を活発化している。港湾、エネルギー施設、産業集積地、物流といったインフラが集中する臨海部は、脱炭素化の実現のために重要な役割を果たすだけでなく、水素利活用を始めとしたさまざまなGXの起点になる。

地域活性化の起爆剤、再生エネを核に産業基盤づくり

国際NGOのクライメイトグループが始めた、企業が事業活動のエネルギーの100%再生エネ化を目指す「RE100」に加盟する日本企業は大手企業を中心に84社(クライメイトグループのホームページより、23年12月時点)。これらの企業が脱炭素化を進めるには、関連する企業を巻き込んだサプライチェーン(供給網)全体の二酸化炭素(CO2)排出量の見える化が不可欠だ。経産省などもサプライチェーンにおけるカーボンフットプリント(CFP)の利用に関する検討を行っている。

その上で、メーカーが原材料の輸入、製品の生産、製品の配送といったサイクルの中で脱炭素化を考える際、利用可能な再生エネが豊富かつ港湾を持ち、周囲にサプライヤーが工場を構える地方の立地を改めて見直す必要があるかもしれない。

福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)

現在、東日本では浪江町で再生エネとFH2Rが供給する水素などを活用した「棚塩RE100産業団地」の造成を開始。洋上風力の建設が進む秋田県は秋田市と能代市に再生エネを利用した工業団地の建設を計画している。

かねて再生エネを利用した産業誘致を進めてきた北海道石狩市の「石狩湾新港地域」では、24年からRE100のデータセンターが稼働予定で、23年3月からはバイオマス発電所の運用が始まった。待ったなしの脱炭素化を追い風に、再生エネの賦存量が多い地方に新しい可能性が見え始めている。

日刊工業新聞 2024年01月01日

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