ニュースイッチ

ロボット導入「最初の1台目」の壁を越える。カギは「AI」「協働」

ロボット導入「最初の1台目」の壁を越える。カギは「AI」「協働」

音声によるロボットプログラムの生成を実演するデンソーウェーブの担当者

ロボットに市場から熱いまなざしが向けられている。生産性向上や品質の安定化に限らず、事業継続を果たす手段としても期待が高まる。ただ産業用ロボットは扱いが難しいといった印象などが先行し、国際ロボット連盟によると普及率は製造業でさえ4%に過ぎない。いかにユーザーのロボットに対する敷居を下げ、産業を支える真のインフラの地位を確立できるか。一つのカギとして人工知能(AI)活用や協働ロボットなどが注目されている。(増重直樹)

AIとコラボ―変種変量の現場に対応 自ら判断・計画を実行

2023年12月2日まで東京都内で開かれた世界最大級のロボット見本市「2023国際ロボット展」。会場ではユーザーとロボットの距離を縮める取り組みの一つとして、ロボットとAIのコラボレーションが目立った。

デンソーウェーブ(愛知県阿久比町)は、米オープンAIの「ChatGPT」を活用したロボットプログラムの生成デモを披露。人が音声で作業内容の指示を出すと、音声のテキスト化処理など複数のプロセスを経て、最終的にAIが生成したプログラムがロボットに反映される。社会実装には至っていないが、担当者は「ロボットの初心者でも高度なロボットプログラムを生成できる可能性がある」と説明する。

安川電機は業界初となる自律性を備えた次世代ロボット「MOTOMAN NEXT(モートマンネクスト)シリーズ」を発売した。従来のロボットは繰り返し作業が求められる大量生産の現場では一定の貢献を果たしてきた。一方で、生産計画が頻繁に変わるなど変種変量の生産現場では導入しづらい弱点が指摘されてきた。

モートマンネクストシリーズは通常のロボット制御に加え、AIなどを盛り込める自律制御ユニットを搭載。周辺の状況に合わせてロボット自らが判断・計画を実行しながら、指示された作業を完結する。一例として、レストランや社員食堂での下げ膳作業の自動化が可能。不規則にトレーに配置された食器の状況などを認識し、自動的に最適な経路を自動生成して実行する。

小川昌寛社長は「オープンアーキテクチャー(設計概念)が特徴で、市場からの期待や要望に対する進化の余地も大きい」と強調。パートナーとの連携によって同ロボットを起点としたエコシステム(生態系)の形成を展望する。

同じ空間で働く―直感操作・簡単設置・メンテフリー

ファナックが食品分野向けに開発した協働ロボット「CRX」

安全柵が設置不要で人と同じ空間で働ける協働ロボットの市場投入もトレンドだ。

ファナックは直感操作・簡単設置・メンテナンスフリーが特徴の協働ロボット「CRX」で、食品分野向けの機種を開発した。作業者がロボットを直接手で動かしプログラムを生成する機能を使うと、生産ライン上の別のCRXにも同じ動作をフィードバックできる。職人の優れた手技の“完コピ”が可能で、ケーキのデコレーションや総菜の盛り付けなど幅広い作業に応用できる。労働者を十分に確保できない食品工場などでも増産に対応しやすくなる。

協働ロボットは人の安全を守るため伝統的な産業用ロボットに比べると動作速度が遅い点が弱点と言われた。ただ安全性と生産性を両立した機種の開発も顕著で使い勝手が向上する。国際ロボット連盟の調査では、産業用ロボットの新規設置台数に占める協働ロボットの割合は22年に初めて1割を超えた。

しかし「日本に限らず世界共通の課題として最初の1台目を導入してもらうことが一番難しい。ここを乗り越えると設備投資が少額で済むことやプログラミングの専門家が必要ないことも理解してもらえる」(ユニバーサルロボットのステイシー・モーザー最高コマーシャル責任者〈CCO〉)との指摘もある。

ロボットがより身近な世界の創造には、メーカーの努力によるロボットの進化だけでなく、受け入れる人が新技術にアレルギーを示さず、勇気を出して一歩を踏み出す姿勢も必要だ。

日刊工業新聞 2024年01月05日

編集部のおすすめ