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デフレ脱却なるか、GX・DX・AI…政府・24年度予算案をまるっと紹介

デフレ脱却なるか、GX・DX・AI…政府・24年度予算案をまるっと紹介

経産省は次世代再生エネの社会実装に向けた、GXサプライチェーン構築支援事業として548億円を計上(ペロブスカイト太陽電池)

賃上げ促進・成長分野に集中投資

政府は賃上げ促進やグリーン・トランスフォーメーション(GX)、デジタル変革(DX)、人工知能(AI)などの成長分野への投資に重点を置いた2024年度予算案を閣議決定した。成長分野に集中投資し、日本経済がデフレから脱却して新たなステージへ移行するための取り組みを加速させる。岸田文雄首相は22日、「歴史的な転換点の中、時代の変化に応じた先送りできない課題に挑戦し、変化の流れをつかみ取るための予算だ」と語った。

経産省 GXをけん引役に/文科省 AI開発に注力

政府はGXを経済の新たなけん引役と位置付ける。経済産業省は24年度当初予算案で、複数のGX関連の新規事業を盛り込んだ。

次世代再生可能エネルギーの社会実装に向けた、GXサプライチェーン(供給網)構築支援事業として548億円を計上。薄型・軽量な次世代太陽電池の「ペロブスカイト太陽電池」、水電解装置、燃料電池(FC)、浮体式洋上風力発電の設備投資などに助成する。鉄鋼や化学など温室効果ガス(GHG)排出削減が困難な産業のエネルギー・製造プロセス転換支援事業には327億円を充てる。

また蓄電池の製造サプライチェーン強靱(きょうじん)化支援に2300億円、持続可能な航空燃料(SAF)の製造・供給体制構築支援事業には276億円を新たに計上する。

既存事業では高温ガス炉実証炉開発に274億円、高速炉実証炉開発に289億円を充てる。経産省の24年度当初予算案の総額は、前年度比2176億円増の1兆9072億円を計上する。

文部科学省は、生成AIをはじめとしたAI開発の強化に121億円計上する。透明性と信頼性を確保した次世代生成AIモデルの構築手法の確立を目指す。学術界を中心に研究者と技術者が生成AIモデルの開発に注力できる環境を整備し、さまざまな分野に特化した生成AIの開発にも取り組む。AI人材を増やすためにも、若手研究者や博士後期課程学生の育成を目指し、研究開発を促進する。

宇宙・航空関連の研究開発には1553億円を計上する。大型基幹ロケット「H3」の高度化や火星衛星探査計画「MMX」の探査機の開発を進める。また宇宙航空研究開発機構(JAXA)に資金供給機能を持たせ、企業や大学の研究開発を支援する。

原子力関連は1474億円を充てる。高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町)の運転再開に向けた準備や、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)内に新設する人材育成の場となる試験研究炉の周辺調査を実施する。

国交省 物流効率化に3802億円

国交省は2024年問題対策で23年度補正と合わせ前年度比で物流は3・66倍、建設は1・6倍と大幅に積み増す(イメージ)

国土交通省は23年度補正予算と一体で、国民の安全・安心、地域の活力や経済成長に資するインフラ投資、分散型国づくりに取り組む。激甚化する自然災害に対し流域治水の強化やインフラの事後保全から予防保全への転換を進める。周辺海域の情勢変化に対し海上保安能力の強化に2595億円を計上した。さらに有事の利用を想定した空港や港湾整備にも取り組む。

24年4月から時間外労働が制限される「2024年問題」対策では23年度補正と合わせ前年度比で物流は3・66倍、建設は1・6倍と大幅に積み増す。大都市圏の環状道整備など効率的な物流ネットワークの整備に3802億円、地方への人の流れを生み出す二地域居住の促進に202億円を充てる。GXでは住宅の省エネ対策やグリーンインフラカーボンニュートラルポートの形成に注力する。

総務省 DXで地域活性化

総務省は地域活性化に向けたDXを推進する。

マイナンバーカードでは運転免許証、在留カードなど各種カードとの一体化や発行・交付の迅速化、出張申請や郵便局での交付申請といった利便性向上に454億円を計上した。

地域のデジタル基盤整備では、条件不利地域への光ファイバー整備費、離島の光ファイバー設備の維持管理費の一部を補助するために49億円を充てる。鉄道や道路のトンネルなど携帯電話の電波が届かない場所に中継設備を整備する費用の一部を補助するため、10億円を計上した。

第5世代通信(5G)の次の世代であるビヨンド5G(6G)関連の研究開発の加速に向け159億円を計上。次世代光通信網、安全な仮想化・統合ネットワーク技術などの社会実装や海外展開につなげ、国際競争力を強化する。

防衛省 反撃能力強化急ぐ

防衛省は中国や北朝鮮の軍事的圧力が高まっていることを受け、反撃能力の強化に重点を置く。12式地対艦誘導弾能力向上型の製造体制拡充に480億円、極超音速誘導弾の製造体制の拡充に86億円を計上。より長射程のミサイル開発費用にも323億円を充てる。中国は奥深い国土から核ミサイルや長射程ミサイルを続けて発射できる強みがある。同国から大量先制攻撃を受けても反撃できる体制づくりを急ぐ。

イージス・システム搭載艦の建造関連費用に3731億円、機動舟艇3隻の取得に173億円を計上。緒戦で南西諸島に敵が上陸した場合でも迅速に部隊や物資を輸送できるようにする。次期戦闘機関連では開発に640億円、連携無人機の研究に48億円、英伊との共同開発機関への拠出金で42億円を充てる。

厚労省 3報酬改定に対応

24年度の社会保障関係費は23年度比2・3%増の37兆7000億円。厚生労働省予算はその大半を占める。24年度は診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス報酬の改定が重なる6年に一度の年に当たり、これら公定価格の見直しに伴う予算として約200億円を盛り込んだ。医療・介護従事者の賃上げに軸足が置かれ、診療報酬では、人件費に当たる「本体」部分を0・88%引き上げるのに伴い約800億円の増額となる。介護、障害福祉サービスも同じくプラス改定だが、薬価は1%引き下げるため、差し引き分が措置される。

配偶者扶養の範囲内で働く人に社会保険料負担が生じる「年収の壁」対策として、正社員化を進める助成金に1106億円、学び直しによる能力開発に1468億円も盛り込んだ。人への投資は夏の概算要求時点からほぼ満額で措置できた。

日刊工業新聞 2023年12月25日

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