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LSIの消費電力100分の1以下に…東北大の看板「スピントロニクス半導体」の未来図
半導体再興へー大学の最先端研究 #3
300ミリメートルウエハー対応の試作ラインを持つ東北大学は材料から設計、デバイス、システム実証まで一貫した半導体開発が可能だ。同大の遠藤哲郎教授は東芝でNAND型フラッシュメモリーの開発と事業化に関わり、大学ではこれを3次元(3D)に積んで大容量化した。
東北大の看板とも言える「スピントロニクス半導体」は電源を切ってもデータを保持できることから、既存の大規模集積回路(LSI)の消費電力を100分の1以下に減らせる。「演算性能と超低消費電力を両立できるユニークな技術」と遠藤教授は強調する。
スピン半導体を使い、これまでに人工知能(AI)向けや車載用、磁気抵抗メモリー(MRAM)を積んだLSIなどを開発。同大の大野英男総長らと世界をリードしてきた技術だが、MRAMについては海外で実用化され、2030年ごろには市場が現在比約100倍の3兆円に達する見通しだ。
文部科学省のプロジェクトでは「スピントロニクス融合半導体創出拠点」として、40近い大学・研究機関、企業と連携し、スピン半導体を中核に光などと融合してLSIの動作実証までを目指す。高温環境や放射線にも強いため、宇宙空間での利用も模索する。
遠藤教授は18年に設計・試作サービスを行う同大発ベンチャーのパワースピン(仙台市青葉区)を創業。LSIのメモリーは順次、MRAMへ置き換わりつつあり、宮城県にも半導体工場が新設されるなど環境も整う。「半導体は総合知だ。日本が強い技術をものにしていきたい」と力強く語る。
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日刊工業新聞 2023年11月28日
特集・連載情報
日本の半導体が再興の波に乗り、大学への期待感が強まっている。先端デバイスの研究開発は一時期、大学でも下火となった。だが、半導体分野の教育・研究を通じた人材育成や、最先端技術の開発はこれから大学の大きな使命となる。専門家はどのような未来図を描くのか。注目研究者のテクノロジー展望に迫る。