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モビリティショーでちりばめられた「アカデミア発技術」が見せる車の延長にない未来

モビリティショーでちりばめられた「アカデミア発技術」が見せる車の延長にない未来

ウニネタを出力する山形大の宇宙向けフードプリンター

移動の概念覆す技術提案

26日に開幕したジャパンモビリティショー2023にはアカデミア発の技術がちりばめられている。その技術は必ずしも移動体とは限らない。山形大学は宇宙にすしを転送するための無重量向けフードプリンターを開発。大日本印刷(DNP)は東京大学仮想現実(VR)技術を応用し、美術回廊を無限に歩けるシステムを提案する。移動の概念を覆す未来が垣間見える。

山形大 宇宙向けすしプリンター

「100万人が宇宙旅行する未来にすしは欠かせない。すし職人が宇宙船に乗り込んでもいいが、積める食材も機械も限られる」―。山形大の古川英光教授は宇宙向けすしプリンターの開発背景をこう説明する。将来、宇宙でもおいしいすしを食べられるようにしたい。だがコメや鮮魚、炊飯器などを打ち上げるわけにもいかない。そこでペースト状の食材ですしを造形する技術を開発する。IHIエアロスペース(東京都江東区)と一正蒲鉾、ノードソン(同品川区)との共同研究だ。

宇宙船には炊飯器などの専用調理機は搭載できないと仮定し、汎用のロボットアームとインクジェットヘッドを組み合わせてフードプリンターを構成した。ウニ風味のかまぼこペーストでウニ味の軍艦ネタを出力する。古川教授は「接着剤を吐出するヘッドをすり身用に改良した。無重量空間で食材の中空構造を作り、食感を再現したい」と意気込む。すしは単純だが繊細な料理だ。ごまかしの利かないすしを出力できれば、幅広い料理を宇宙へ転送できる。

大日印 東大のVRで美術館体感

ポールをつかんでらせん階段を登る

DNPはフランス国立図書館のマザラン・ギャラリーを歩くVRシステムを提案する。VR空間には8×45メートルの巨大天井画に近づいて見るための足場が配置されている。手すりやポールを伝って歩いていくと天井画に手の届きそうなところまで迫れる。現実には4メートルの手すりと、その前後にポールが2本立っているだけだ。2×8メートルの空間で8×45メートルのVR空間を体感させる。

東大の鳴海拓志准教授らの無限階段や無限回廊の技術を応用した。現実の移動距離に対してVRで伸ばしたり、縮めたりした映像を提示する。すると身体が4メートル歩いても映像は5メートル進んだり、3メートルに縮めたりと調整できる。ポールを手にらせん階段を登る場面では、身体は540度回転していても、VRでは450度回転や630度回転の映像を見せる。すると身体はUターンを繰り返していても、VR空間では左右に曲がった通路を歩くことになる。

これなら大仏の周りを歩いて登るようなコンテンツを作れる。DNPの磯田和生主席研究員は「大きさを歩いて体感できる。複数の美術館をつないだ対話型の観賞体験を実現したい」という。

VRでは小さな作品も大きくできる。例えば国宝の天目茶わんを20メートルに拡大し、その中を歩いて星を観察することも可能だ。磯田主席研究員は「大きくするとまず圧倒される。そして微細な美に気が付く」と説明する。宇宙で食べるすしや歩いて見る価値の再発見など、車の延長にはない未来がそこにはある。


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日刊工業新聞 2023年10月27日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
宇宙旅行にすし職人を連れて行けなくても、すしは持って行きたい。この執念は海外では起きない類いのイノベーションを生むかもしれません。実際、3Dプリンターのウニを章男会長がこれはうまいと喜んでくれたと、先生と学生さんが喜んでいました。カニカマしかりウニしかり、日本の食品加工の技術は進んでいると思います。無重量でもかまぼこペーストを吐出できるのか、ヘッドで液だれしたら3D構造は作れないので検証が必要です。無重量環境での実証が待たれます。VRは巨大作品を見上げると、権力者が建築物で威信を示したのがよくわかります。小さな作品でも大きくして体感すると、すんごい物な気がしてくる。これは美術品を魅せるテクニックとして大事だと思います。美術品オークションの事業者なら、まずはお客さんに体感させて価値を伝えてから、オークションを始めたいと思うはずです。どちらも、なぜモビリティショーで体験できるのか謎ですが、ここにモビリティの未来を見いだすのは必然かもしれません。

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