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鹿島・清水・大林組・大成…ゼネコン大手自ら運営・開発する物流施設に存在感

鹿島・清水・大林組・大成…ゼネコン大手自ら運営・開発する物流施設に存在感

EC市場の拡大が物流施設の開発を後押しする(イメージ)

ゼネコン大手が自ら開発・運営する物流施設が、国内で存在感を高めている。鹿島は9月、独自ブランド「KALOC(カロック)」で参入を決定。以前から清水建設は「S・LOGI(エス・ロジ)」シリーズを展開しているほか、大林組大成建設も開発に積極姿勢を示す。各社は「単純に施工を請け負うだけの存在からの脱却」を志向。物流施設を含む不動産開発事業を建設事業に次ぐ柱と位置付け、売却も視野に入れることで収益力を底上げする絵を描く。(堀田創平)

不動産開発第2の柱に

ゼネコン大手はオフィスや大型複合施設と並び、物流施設を不動産開発事業の要と捉える。いずれも長期保有によって賃貸収益を得たり、自社で組成した私募の不動産投資信託(REIT)に組み込んで“出口”を確保したりする例が多い。少子高齢化で国内の建設投資が段階的に縮小していく中、不動産開発は本業で蓄積した知見や技術、コスト競争力を発揮できる親和性が高い領域といえる。

実際、ゼネコン大手が開発する物流施設は着実に数を増やしている。大林組は2000年以降に、機材センターなど自社施設の運用効率化と併せて土地利用の見直しに着手。特定企業に仕様を合わせ1棟貸しする「BTS型」を皮切りに、開発・保有中と売却済みを合わせて16棟(延べ床面積は約82万6500平方メートル)を展開する。清水建設も同11棟(同約54万平方メートル)を手がけている。

ただ「最近は入居企業が物件を厳選する傾向が強くなっている」(大林組)。そこで訴求するのが、ゼネコンならではの「プラスアルファの提案」(清水建設)だ。竣工から稼働までの期間を短縮したり、環境配慮技術を適用したりすることに重きを置く。入居企業だけでなく、売却時の買い主まで意識。「自社の設計・施工技術を投入する実証フィールドとしても活用する」(鹿島)構えだ。

各社が物流施設の開発を進める背景にあるのが、電子商取引(EC)市場の拡大だ。家庭外で調理された食品を持ち帰る「中食」など食事情の変化を受け、従来の物販に加え生鮮食品や加工食品を扱う冷凍・冷蔵倉庫のニーズが増加。半導体や自動車など製造業の需要も強く、交通利便性に優れる適地は人気が高い。都市部周辺は供給も少ないため、マンションと競合する例も出ているという。

不動産サービス大手のJLLによると、23年1―6月の国内不動産投資のうち28%を物流施設が占めた。同40%のオフィスに次ぐ水準で、店舗とホテル、商業施設の各10%を上回る。過去5年でも19年の19%がコロナ禍の20年に31%でオフィスと並び、21年以降も10%台後半を保つ。大東雄人シニアディレクターは「オフィス需要の後退もあり、物流施設への投資意欲が活発になった」と読む。

一方、首都圏では物流施設の需給が緩む傾向も見られる。23―25年には「直近3年で最大規模の供給が見込まれる」(大和ハウス工業)。一五不動産情報サービス(東京都大田区)によると、東京圏では5―7月に約132万2000平方メートルの供給があったが、需要は約101万7000平方メートルにとどまった。ゼネコン各社は市況の変化を見極め、立地や投資規模、時期を分散させる戦略で臨む。

マルチテナント型/環境配慮型コンクリ採用

鹿島は国内で物流施設開発への参入を決めた。開発する「鹿島富谷物流センター(仮称)」(イメージ)

鹿島は東京・南六郷と宮城・富谷で、24年10月にカロックブランドのマルチテナント型物流施設を竣工する。国内での物流施設開発は初めてで、23年度までの中期経営計画で掲げた開発目標(1件)を上回る実績となる。成長分野と捉える物流施設をレパートリーに加えることにより、オフィスやマンションが主体だった国内の不動産開発事業をより盤石にする。

担当者は開発中の2件について「入居を検討中の企業があり、想定通りの需要がある」と手応えを示す。まずは設計・施工や材料調達などで工夫を重ね、次の工事に生かせる検討項目の洗い出しと課題解決に注力。独自の環境配慮型コンクリートを使って施工中の二酸化炭素(CO2)排出量を低減したり、建機をバイオディーゼル燃料で動かしたりする付加価値も磨く。

宮城・富岡の物件には、東北地方のマルチテナント型物流施設では初めての免震構造も採用する。同社は2件とも当面は保有する予定としているものの、中長期では売却も検討。今回のような小規模施設だけでなく、地方都市を軸に大規模施設の開発計画も打ち出していく意向だ。ラストワンマイル配送に対応できる都市近郊の立地など、土地の選定にもこだわっていく考えだ。

一方、先行する大林組は保有不動産の拡充にあたり「ポートフォリオの多様化とリスク分散」(担当者)に取り組む。その中でも、賃貸用物流施設は「有効な選択肢」(同)。適地の調達と並行し、年1、2件の収益化を進める方針だ。建物の企画段階から関与することで、あらゆる仕様に応える効果的な計画を策定。入居企業との確実なマッチングを目指している。

足元では、全国で8棟(延べ床面積約40万3300平方メートル)の開発を進める。このうち札幌市の「発寒物流センター計画」では、製造工程のCO2排出量を低減した環境配慮型コンクリートを採用。北海道恵庭市の「恵庭物流センター計画」には立地を生かした雪室設備を設けるなど、ユニークな環境対策も注目されている。いずれも、本業の技術や知見を生かした格好だ。

建設のノウハウ、設計・施工に反映

物流施設の展開では付加価値を高める戦略も重要になる(ラウンジなど共用設備を充実させた清水建設のエス・ロジ)

これに対し、07年に立ち上げた自社ブランドのエス・ロジを積極展開する清水建設は、これまでBTS型6棟・マルチテナント型2棟の開発実績を誇る。担当者は「物流業界で一定の認知度を持つブランドに育った」と目を細める。広い柱スパンや高めの梁(はり)下などの基本仕様に加え、液状化対策や浸水対策、さらに高断熱化や太陽光発電システムなど環境への配慮を好感する企業が多い。

物流施設として、取り扱い貨物の増加や人口減少による深刻な労働力不足への対応も急ぐ。6月に建機レンタル会社などと立ち上げた新会社「リードテック」(東京都中央区)はその一つで、無人フォークリフトを軸とした搬送システムの構築を目指す。バースの予約システムや、建屋間の無人搬送システムと組み合わせて提供することも可能だ。

大成建設も非オフィス分野の拡充を掲げ、物流施設やホテルの開発に力を注ぐ。特に旺盛な需要に沸く物流施設は「開発事業の利益拡大につながる」(担当者)と判断。足元で開発する4棟には長期保有を想定するものだけでなく、竣工を待たずに売却が決まった物件も出ているという。担当者は「当社が手がける物件のニーズの高さを実感している」と自信を示す。

もちろん、開発を進める上では建設事業の「お客さま」である不動産大手などと競合する場面も少なくない。ただ「自ら事業者として参画することで、得られたノウハウを設計・施工に反映できる」(担当者)。土地取引の過熱や建設コストの上昇、需給の緩和などの課題も指摘される中で、顧客が抱える土地活用のニーズなどを早期に収集。会社全体で効果を引き出す。

日刊工業新聞 2023年10月23日

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