カーペットの段差・壁の反射も影響…不動産・ゼネコン各社が構築急ぐロボットが働きやすい環境作り
不動産・ゼネコン各社が、オフィスビルや商業・宿泊施設などでのロボット活用に力を入れている。警備や配送、清掃といった施設管理の現場で担い手不足が慢性化する中、業務の一部または全部をロボットに代替することで省人化や効率化を進める狙いだ。だが工場や物流施設と異なり、人が日常的に行動するオフィスビルや商業・宿泊施設はロボットにとって障壁が多い。人のバリアフリー化を進めたのと同様に、ロボットが働きやすい「ロボットフレンドリー(ロボフレ)」な環境構築が急務だ。(堀田創平)
オフィスビルや商業施設など日常空間へのロボット実装は、不動産・ゼネコン大手にとって本業との親和性が高い領域だ。不動産各社はオフィスビルや各種施設の開発に伴い、課題となる施設管理業務の人手不足問題を解決する手段の一つと認識。品質と省人化を両立する効果も訴求する。ゼネコン各社も設計・施工の延長線上にロボット実装を位置付け、建物の運用や維持管理に使える工夫や、各種設備とロボットを一元管理するITプラットフォーム活用の検討に乗り出した。
現状では働くロボットは、ロボットメーカーが導入環境に合わせて個別設計した“一点モノ”が大半とされる。一点モノの開発には手間もコストもかかる。そこでユーザー側で受け入れ環境を整えようというのが、ロボフレの考え方だ。「ロボットメーカーとユーザーの知見を結集し、人とロボットが共存できる最適解を見つけ出す。そうしなければ導入のハードルは下がらない」(不動産大手)と危機感は強い。
その“最前線”の一つが、2022年に発足した「ロボットフレンドリー施設推進機構(RFA)」だ。官民連携のタスクフォースを源流に、現時点で三菱地所や東急不動産、森トラストなど不動産大手のほか、清水建設や戸田建設といったゼネコン、ロボットメーカーとユーザー、エレベーターメーカーなど約40社が参画。ロボフレ環境の確立に向け、規格化やマニュアル化をけん引している。
現在、RFAが注力するのは①「エレベーター連携」②入退管理システムなどとの「セキュリティ連携」③建物の間取りや壁、床をロボフレ仕様で設計する「物理環境特性」④用途の異なる複数のロボットを同時に動かす「ロボット群管理」―の4領域。このうちエレベーター連携は22年に規格を策定し、セキュリティ連携もめどが付いた。残る二つも、23年度中の規格化を目指す。
RFAによる規格を活用した一例が、三菱地所が手がけるロボットによるデリバリーサービスだ。大手町パークビル(東京都千代田区)では注文に応じ、ロボットが店舗からオフィスの自席まで飲み物や軽食を届ける光景が当たり前になりつつある。三菱地所DX推進部の渋谷一太郎統括は「セキュリティーシステムを通り、エレベーターで複数フロアの100カ所以上に届けられる」と手応えを示す。
東急不動産や東急コミュニティー(同世田谷区)も、各種ロボットを運用する「東京ポートシティ竹芝」(同港区)で物理環境特性の実証を続ける。壁に反射した光や点字ブロックが及ぼす物理面の課題に加え、曲がり角での人との接触など運用面の課題も整理。その上で段差の解消や警笛の利用、大回りな動きの採用などの対策を試み、既存の建物でも対策しやすい一覧の作成にこぎ着けた。
一方、森トラストは運営する東京・八重洲の「コートヤード・バイ・マリオット東京ステーション」を改修。清掃・運搬ロボットが円滑に稼働できる環境づくりを進める。エレベーターや自動ドア、カーペットの段差などの設備改修を終え、23年に清掃・運搬ロボット5機種5台を実装。段差や通路幅、床・壁材や照度などの標準化だけでなく、導入効果や経済性の検証も重要課題と位置付ける。
実証では清掃やルームサービス、アメニティー・リネン品の運搬にロボットを活用。例えばエレベーター連携ではシステム上の改善に加え、乗り場とカゴの間にできる隙間や段差の影響を検証中だ。稼働可能な条件を詰めるとともに、保守点検の頻度や専用スロープの有無などによる効果も調べる。エレベーターの大型化についても検討し、建物とロボット双方で求められる仕様を明確にする。
また、カーペットの毛足の長さや継ぎ目などの段差、床・壁材やセンサー受光部が太陽光から受ける影響なども検証。今回は経年変化で生じたカーペットの段差を解消したり、窓ガラスに直射日光を抑える遮光シートを貼ったりする対策を試している。ただ「特にバックヤードでの苦労が多い」(担当者)。モデル環境の確立と同時に、建物・ロボットに必要な改修コストも算出する計画だ。
ゼネコン各社の動きも活発だ。戸田建設は4月、建物内外に整備した同一のWi―Fi環境でロボットを制御する実証に成功した。アンテナユニットに接続した仮設材の単管パイプを導波管とし、建設現場に安定した無線通信環境を確保する独自の仕組みを活用したものだ。これを建物の内外に設置し、ロボットと人がエレベーターに同乗したり、屋外を一緒に移動したりする動作を実現した。
同社技術研究所で行った実証実験では、ZMP(東京都文京区)の宅配ロボット「デリロ」を投入。本館から実験棟まで屋外を走った後、日立ビルシステム(同千代田区)のエレベーターに人と同乗し荷物を届けるまでの流れを問題なくこなせることを確認した。戸田建設新技術・事業化推進部の黒瀬義機部長は「今後は人が許容できる、快適な挙動についても考えないといけない」と気を引き締める。
これに対し、清水建設は建物の設備と各種サービスロボットを一元管理する独自の基本ソフト(OS)に磨きをかける。核となるのは、建物OS「DXコア」と各種ロボットを統合制御する「モビリティコア」だ。自動ドアやエレベーター、カメラ、見取り図など建物の情報を統合し、ロボットに提供する仕組みだ。OSのアップデートにより、ロボットを容易に追加できる強みも強調する。
同社技術研究所ロボティクス研究センターの山崎元明グループ長は「あらゆるサービスやロボットを効率よく実装するプラットフォームであり、ロボットの“交通整理係”という位置付けだ」と説明する。同研究所で行った実証では、構内の自動運転車を降りた人が荷物を配送ロボットに預け、案内ロボットと自動ドアを通り、自動で呼び出されたエレベーターに乗り込むまでの運用に成功した。
同社による大規模複合開発「ミチノテラス豊洲」(同江東区)にも、こうした技術が詰め込まれている。まずはデジタルツインの技術を活用し、設計・施工から建物の運用管理までを一元化。その上で建物やロボットから集めた情報を活用し、街区全体の生産性や利便性を向上していくシナリオを描く。青木滋ロボティクス研究センター長は「一気通貫でできることが当社の強み」と力を込める。