みずほ、三井住友、三菱UFJ…メガバンクが「アルムナイ」との関係を強化する狙い
3メガバンクが中途退職したアルムナイ(卒業生)を人的資本に位置付け、関係を強化している。アルムナイを組織化した「アルムナイネットワーク」をそれぞれ立ち上げ、3社合計の登録者が2000人を超えた。各社はアルムナイとの交流や情報交換などを通じ、カムバック採用や現役社員の意識改革、ビジネス連携につなげたい考え。新卒一括採用で同質化しがちな組織に外部の知見、発想を効率的に取り込むことで新規事業の創出やビジネスモデルの変革を促す狙いだ。(石川雅基)
みずほフィナンシャルグループ(FG)は9月、アルムナイと現役社員が対面で交流するイベントを初めて開いた。アルムナイ約50人と現役社員約10人が参加し、近況やビジネスアイデアなどについて情報交換した。
同社はアルムナイ制度に早くから注力してきた。「『退職者は裏切りもの』という捉え方に変化を起こし、業界のカルチャー変革の一手になっている」(アルムナイ研究所)と取り組みへの外部評価も高い。成果も上がっており、2022年度にグループでアルムナイを約10人採用した。
一般的にアルムナイネットワークで多様な人材を独自にプールすることで、採用・教育コストを抑えて効率的に人材を確保できる。情報提供も容易でミスマッチも少ない。中途人材の獲得競争が激しくなる中、採用力向上に寄与するだけに各社は活用に積極的だ。
ただ、みずほFG人材開発担当兼コーポレートカルチャー担当の秋田夏実執行役は「アルムナイの再入社が注目を集めがちだが、それだけが価値ではない」と強調。その上で「互いに刺激し合うことも重要」と指摘する。
実際に交流会に参加したみずほ銀行の若手行員は「意味があるか疑問に思う仕事でも退職後に役立っていると言われて勇気づけられた」と話す。「外とのつながりを大切にしたい」と気持ちを新たにしていた。
アルムナイにとってもキャリア形成やビジネス面でメリットが大きい。起業した元同行行員は「今の仕事で接することができない人と視座の高い話や業界の話ができるので大きなプラスになる。機会があれば一緒に仕事をしたい。今の顧客も、みずほとつながってほしい」と期待を寄せる。
三井住友銀行もアルムナイ約100人と現役行員約20人が交流する立食のイベントを7月に開催した。9月にはアルムナイがウェブ上で現役社員とコミュニケーションを取れる「トークルーム」を設けた。ビジネス連携では「案件の持ち込みが複数来ており、具体化に向けて担当部署と対応を考えている。アルムナイの所属企業との人材交流も検討中」(同行)という。
三菱UFJ銀行もビジネス連携に向け、アルムナイと担当部署を結び付けた。今後も連携を加速するために「銀行が主体的にマッチングに動く。各部が共同でアルムナイへの有用な情報提供を強化する」(同行)方針だ。
各行がアルムナイ制度の活用に注力する背景の一つが事業領域の拡大だ。銀行は法改正でITシステムの外販やデータビジネスなど展開できる事業が大きく広がり、「ゼネラリスト志向の生え抜きだけでは、事業環境の変化に対応できない」(大手行の採用担当者)状況。りそなホールディングス(HD)の南昌宏社長が「金融を変革するには同質の集まりではなく、高い専門性や多様性が必要」と指摘するように、外部とつながる重要性が増している。外の知見や専門性を効率的に取り込めるアルムナイを人的資本として有効活用できるかが成長に向けたカギとなる。
【関連記事】 三井住友FGの知られざる稼ぎ頭