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高強度・軽量・プラ削減…自動車部品にCNF複合樹脂、大王製紙が採用へ一歩

高強度・軽量・プラ削減…自動車部品にCNF複合樹脂、大王製紙が採用へ一歩

大王製紙のCNF複合樹脂を活用した自動車部品の成形試作品

大王製紙は木質由来の新素材、セルロースナノファイバー(CNF)複合樹脂「エレックス―R」で、自動車部品向けのサンプル提供を積極化している。CNFが持つ高強度、軽量化、プラスチック削減の効果を期待し、すでに部品メーカー数十社が試作成形した。ただ車関連は電気自動車(EV)への転換が進む中で安定した部品供給が求められ、新規採用は容易ではない。大王製紙は数年内の正式採用をにらみ、部品メーカーと強固な関係を構築する。

「プラスチックにCNFを10%混ぜると、硬さはプラ単体の1・7倍になる。16%薄くし、軽くしても同じ硬さを保てる」。新素材研究開発室の大川淳也室長は、CNF複合樹脂についてこう強調する。10月初旬に千葉市内で開かれた展示会に出展、エレックス―Rによる実際の車向け「成形試作品」をずらり並べた。水分散液や成形体、複合樹脂など全5種の展示にとどまっていた従来と比べ、新鮮さが際立つ。

高濃度セルロースが特徴の大王製紙のCNF複合樹脂「エレックス-R67」

展示会でお披露目した成形試作品は、フロント周りの外装樹脂成形品のほか、窓枠、バックドアなど車内装樹脂成形品、骨格部品、トラック向けフェンダーなど。いずれも部品各社が既存の射出成形の型を活用し、試し打ちした成果である。

CNFは木材パルプ由来で、繊維を細かくほぐした素材だ。高強度と軽量を両立でき、従来のプラスチックからの一部代替材として期待される。大王製紙のエレックス―Rはペレット状で、セルロース濃度を67%や55%などで供給するため、顧客は最終製品に適した希釈度で自由度の高い成形が可能になる。同濃度を10―20%に希釈する場合、弾性率は従来比1・7―2・1倍、プラスチック使用量は25―38%削減できる見通しだ。

同社は2022年3月、三島工場(愛媛県四国中央市)内でCNF複合樹脂パイロットプラントを稼働させた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けたもので、CNFと樹脂の混練用設備は芝浦機械と共同開発。生産能力は年100トンだ。同設備によって一貫製造プロセスが確立し、サンプル供給にも弾みが付いた。

NEDOはCNFの市場規模目標を、50年に6兆円と予測する。大王製紙は従来、モータースポーツの車両や観光バスなど単体へのCNF部材供給を行ってきた。玉城道彦上席執行役員は「CNFを使うスポーツ、ヘルスケア用品などは出てくるが、車分野での量産採用にはもう少し時間がかかる」と慎重な見通しを示す。車部品は物性と成形の両面、品質のバランスが問われる。試作成形品は量産に向けた初期段階ながら、今回の展示からは車分野に確実な一歩を踏み出しことがうかがえる。


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日刊工業新聞 2023年10月12日

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