新日本電工・日本製鉄・JFE…「PBR1倍超」急ぐ、企業価値向上で株価底上げへ
東京証券取引所が求める株価純資産倍率(PBR)1倍超をめぐって、上場する鉄鋼各社の取り組みが活発化している。高炉3社は現中期・中長期経営計画を着実に進める一方、特殊鋼や合金鉄メーカーなどはPBRを意識した施策を打ち立てている。鉄鋼は国内産業界の二酸化炭素(CO2)排出量の約4割を占め、2050年に向けた脱炭素対策が急務だ。投資家らの理解をどう促す考えなのか。各社の動きをまとめた。(編集委員・山中久仁昭)
「PBR1倍超に向けて成長戦略、収益性、財務戦略、サステナビリティー(持続可能性)に注力したい」。合金鉄を手がける新日本電工の青木泰社長は24年1月の始動に向けて策定する長期事業戦略の方向性を説明した。一言でいえば、「社会課題の解決への貢献」と「企業価値の向上」の両立に集約されるようだ。
三菱製鋼は23年度にスタートした中期経営計画に「四つの取り組みを通じPBR1倍以上を意識し、中長期的な企業価値向上を目指す」と明記した。4施策とは稼ぐ力の強化、戦略事業の育成、人材への投資、サステナビリティー経営。山口淳社長は中計について「30年のありたい姿への通過点」とし、PBR向上を経営の根底に据える。
ステンレス鋼を手がける日本冶金工業は、22年度に約0・8倍だったPBRを早期に1倍以上に引き上げる考えだ。30年度までの長期経営目標、23―25年度の中期経営計画に「時価総額1000億円超をターゲットに」と明示。PBR1倍以上を念頭に、稼ぐ力向上やキャッシュフロー創出など継続的な株価底上げ策が必須だとしている。
高炉3社はPBR1倍超について、どんなスタンスなのか。日本製鉄の森高弘副社長は「(脱炭素化など時代に沿う)成長戦略に沿って、多少時間がかかるが成長を続けることでいずれ実現できる」とみる。PBR1倍超は目的ではないものの「株価を気にしつつ企業として成長する」(森副社長)一つの目安ととらえる。
現状のPBRについてJFEホールディングス(HD)の寺畑雅史副社長は「十分な評価を得られておらず、株価は満足のいく水準ではない」との認識を示す。神戸製鋼所の勝川四志彦副社長は「投資家にとっては、過大な脱炭素投資が必要ではないか、現行資産はどうなるかなどのモヤモヤ感があるかと思う」と分析する。
ともすると脱炭素はリスクになりかねないとみる投資家にどう応えるかが注目点だ。勝川副社長は「地に足を付けた具体的計画を明示し、低評価を少しでも改善したい」と話す。鉄鋼業の多くの企業は「研究開発やパイロットプラント整備を進め、技術の優位性で市場の信頼を勝ち取っていきたい」(寺畑JFEHD副社長)とし、地道な取り組みこそが最良の方策と考えているようだ。
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