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クルーズ船で気づく「エグゼクティブは車で移動、別室で食事」の真意

論説室から/
クルーズ船で気づく「エグゼクティブは車で移動、別室で食事」の真意

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夏の休暇でクルーズ(周遊船旅行)に初参加した。新型コロナウイルス感染症でダイヤモンド・プリンセス号が注目され、期せずして認知が広がった遊び方だ。提供されるのは「船での移動」「食べ放題の飲食」「船内のショーやダンスレッスンなどアクティビティー」の三つ。海外を含む寄港地観光も入るが、船内ステイが重視される。価格は船にもよるが意外に安い。

楽しみを別にして驚きは、日常的なストレスがほぼ生じないことだった。こちらがミスしてもスタッフが多いため対応に余裕があり罪悪感を感じない。

順番待ちも多少あり、きちんとしていない列に当初は「英語で『私が先です』と主張しないと見下されるのでは」と気になった。しかしイライラした声は周囲からも挙がらず、ゆっくりと列は縮まった。そのうち他の乗客のふるまいや服装も気にならなくなり、自身がおおらかになったことを実感した。

振り返ると通常の海外周遊旅行はストレスの塊だ。頻繁に部屋を替え、荷物の出し入れや持ち運びが負担だ。常に安全管理に気を使い、道に迷い、言葉が通じずに悔しい思いをする。こういった刺激を魅力に感じるのが若い世代なのだろう。

年長者にクルーズが人気なのは、VIPのようなゆったりとしたシチュエーションというのが理由の一つだろう。これまでVIPの公共交通機関を使わない移動や別室での食事など、閉鎖空間での活動に多少の反感を持っていた。しかし社会的に重要な仕事に就く人は、それ以外の場でのストレスを抑える工夫が人一倍、必要なのだと合点がいった。

新たな余暇活動でそんな発見をした。過度な刺激が苦手な世代になっても、好奇心は失わないでいたい。

日刊工業新聞 2023年10月02日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
論説委員として担当する欄のうち、社説は内容も表現も堅いものが求められます。対してこのコラム「論説室から」なら、柔らかいテーマを採り上げられます。とはいっても今回は休暇の話とあって、さすがに執筆を迷いました。ただ「一流の企業の社長などエグゼクティブは車で移動。一般社会と交わりたくないのかな?」というひっかかりは、妬みも含めて多くの人が持つ感情だろう、と思ったことから、このような記事に仕立ててみました。

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