基準地価に「半導体」の風、上昇率32.4%で全国1位に躍り出た自治体は?
国土交通省が19日公表した7月1日時点の基準地価(都道府県地価調査)は、全国の全用途平均が前年比1・0%上がり2年連続の上昇となった。特に半導体大手が進出を決めた地域で住宅やオフィス、物流施設などの需要が急伸。上昇率上位10地点のうち、9地点で地価を押し上げる要因となった。景気の緩やかな回復を受け、住宅地、商業地、工業地とも需要は底堅い。3大都市圏を軸に地価上昇の波が広がり、地方4市を除く地方部でも30年続いた下落に歯止めがかかった。(堀田創平)
商業地はコロナ後の人流回復を背景に、都市部を中心に店舗・オフィス需要が回復。インバウンド(訪日外国人)を含む観光客の戻りも地価の上昇に寄与した。交通利便性の高い地域ではマンション需要との競合もあり、全国の平均変動率は1・5%と2年連続で上昇。再開発事業が進む3大都市圏や地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)でも、利便性や繁華性向上への期待感から地価が上向いた傾向がある。
東京・銀座の「明治屋銀座ビル」も2022年の0・5%下落から2・0%の上昇に転じ、18年連続で全国の最高価格を付けた。上昇は4年ぶりとなる。銀座では富裕層による高額商品の消費が好調で、店舗の収益性が改善。インバウンドの本格回復に対する期待感も、地価上昇を後押ししたようだ。大阪圏でも大阪・梅田の「グランフロント大阪南館」が上昇に転じるなど、地価上昇に沸く。
「観光客の伸びがプラスの効果をもたらした」(国交省地価公示室)地域も多い。岐阜県高山市は複数のホテル計画もあり需要が拡大。中心部の地価は22年の3・2%下落から9・8%の上昇に転じた。コロナ前のにぎわいを取り戻した那覇市も、0・6%の下落から11・7%の上昇と大きく好転。東京・浅草や京都・祇園は上げ幅を拡大させ、強いブランド力を見せつけた。
一方、上昇率32・4%で全国1位に躍り出たのが熊本県大津町。工業地や住宅地のトップも上回り、全国全用途で首位となった。原動力となったのが、台湾積体電路製造(TSMC)が建設中の半導体工場だ。ラピダスによる半導体工場の新設が決まった北海道千歳市とともに、オフィスやマンション、ホテルなどの需要が地価をけん引。千歳市では投資目的による土地取引も活発化している。
多様な働き方への対応や優秀な人材の確保に向け、都市部で旺盛なオフィスの拡張・移転需要も地価上昇につながった。JLLリサーチ事業部の大東雄人シニアディレクターは「欧米に比べオフィス回帰の動きが強い。住宅環境の違いもある」と捉える。足元では、コロナ禍で後退したオフィス投資も回復。特に3大都市圏では中心部のオフィス需要が堅調で、地価も高い上昇を示している。
工業地は全国の平均変動率が2・6%と7年連続で上昇し、上げ幅も3年連続で拡大した。旺盛な電子商取引(EC)に加え、半導体や自動車関連など製造業による物流施設の需要が地価上昇をけん引した。特に交通利便性に優れ、高速道路や幹線道路にアクセスしやすい適地の地価は上昇が目立った。物流施設の賃料上昇対策として、自社拠点の集約・再配置に動く物流大手も出てきている。
その好例が、上昇率30・3%で上昇率2位となった福岡県志免町だ。福岡市中心部や福岡空港への優れたアクセス性から、物流施設やオフィスの需要が拡大。地下鉄駅への近さが好感され、マンション用地との競合も見られた。千葉県船橋市や同市川市も、都内への交通利便性や都区部に比べた割安感が評価された地域だ。ただ供給は限定的であることから、地価は高い上昇を続ける傾向が強い。
半導体大手の影響も大きい。熊本県大津町や同菊池市は、それぞれ31・1%、29・2%上昇。工場や物流施設を求める企業に対して「用地が圧倒的に不足している」(地価公示室)ことも響いた。北海道千歳市の地価も、横ばいから29・4%の上昇に転じた。大和ハウス工業Dプロジェクト推進室の廣渡政和担当次長は「契約先が物流大手でも、荷主は半導体という例も多い」と明かす。
こうした中、物流施設への投資は底堅い。JLLの調べでは、23年1―6月の国内不動産投資のうち28%を物流施設が占めた。同40%のオフィスに次ぐ規模で、10%で並ぶ店舗とホテル、住宅を大きく上回った。大東シニアディレクターは「コロナ禍に普及したテレワークを踏まえ、海外投資家はオフィスに対し慎重姿勢を崩していない」と指摘。物流適地が不足した近年の反動との見方もある。
ただ、首都圏の物流施設は需給が緩む傾向も見られる。23―25年には「過去最大の供給が予定されている」(大和ハウス工業の廣渡担当次長)。一五不動産情報サービス(東京都大田区)によると、東京圏では5―7月に約101万7000平方メートルの需要があった一方、供給は約132万2000平方メートルあった。特に首都圏中央連絡自動車道(圏央道)沿いは開発が集中しているという。
住宅地の地価は都市中心部や生活利便性に優れた地域を中心に上がり、全国の平均変動率は0・7%と2年連続で上昇した。3大都市圏や地方4市では都市中心部の地価上昇に伴い、郊外にも需要が波及。周辺の市などで地価が上昇した。国交省地価公示室は「働き方の多様化で暮らしへのニーズが複雑化した結果」と読む。半面、北海道や石川県には人口減で地価が弱含んでいる地域もある。
人口集中が進む札幌市から住宅需要が広がった北海道恵庭市は、札幌市と比べた割安感から需要が継続。地価は29・0%上昇し上げ幅も拡大した。福岡市中心部へのアクセスが良好な福岡県大野城市も、用地の供給不足と旺盛なマンション需要から14・3%上昇。また長野県軽井沢町や沖縄県恩納村、同宮古島市では生活様式の変化を背景とした移住ニーズが急伸し、地価を押し上げた格好だ。
上昇率30・7%で全国1位となった北海道千歳市は、これまでも公務員を中心に一戸建て住宅の需要が強い一方、住宅地の供給不足が続いていた地域だ。ここにラピダスの進出が加わり、関連企業の従業員を含む住宅需要が一気に拡大。これにより、地価の高い上昇をもたらした。現時点で周辺地域への影響はないが「熊本の例と同じく、今後は広がる可能性がある」(地価公示室)と見通す。
一方、東京23区では新宿へのアクセス性に優れる東京都中野区が6・4%上昇。中野駅周辺では複数の再開発事業が進展していることもあり、利便性向上への期待感が地価上昇の呼び水となったようだ。東京・多摩地区の28市町でも22年の1・0%を上回る2・2%の上昇に。24市で上昇率が拡大、4市町も横ばいから上昇に転じたことで、中心部から郊外へと広がる地価上昇の波が鮮明になった。
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