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楽天が携帯赤字歯止めへ、2024年の黒字化は可能か

楽天が携帯赤字歯止めへ、2024年の黒字化は可能か

モバイル事業の黒字化に向けた三木谷氏のかじ取りが試される

携帯通信事業への設備投資を要因とした楽天グループの営業赤字が縮小しつつある。2023年1―6月期連結決算(国際会計基準)のモバイルセグメントの営業損益は1850億円の赤字と、赤字額が前年同期比約687億円減った。携帯通信事業への本格参入から4年目。巨額投資で自社回線網の整備を急いだ第1段階からコストを最適化する第2段階を経て、24年にも黒字化という第3段階への移行を目指す。(編集委員・水嶋真人)

「第2段階は終焉(しゅうえん)に近づいている。10―12月期ごろから黒字化した上で国内1位の携帯キャリアになる第3段階への道を突き進む」―。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は、携帯通信事業の次の目標をこう説明する。

楽天モバイルは20年4月、自社回線を用いた第4の携帯通信事業者としてサービスを始めた。大幅に安い料金体系を作り「(3社の)寡占状態に切り込みを入れた」(三木谷氏)ことで、自社回線網を使う携帯通信事業者の平均月額料金は3年間で1500円以上安くなった。

だが、三木谷氏は「我々は国営企業が民営化したわけではない。スクラッチ(最初の段階)からベンチャーの力で携帯通信網を作った」とした上で「海外と違って国がいろいろな支援をしてくれるわけでもなく、自分たちでやらなければならない」と吐露する。仮想化技術を用いた基地局開設という第1段階を「多少強引に進めた」(同)結果、22年1―6月期のモバイルセグメントの営業損益は2538億円の赤字となった。

モバイルセグメントの営業損益

このため、三木谷氏は第2段階としてコスト最適化を23年の目標とした。5月にはKDDIから回線を借りる「ローミング」で同社と新たな協定を結んだ。自社回線で提供してきた東京23区など一部繁華街でもKDDI回線を借り、“つながりやすさ”を改善。基地局の建設ペースを緩めて投資の抑制につなげる。

基地局開設費用やテレビCMも見直した結果、単月のネットワーク費用と販売管理費の合計は6月時点で約260億円と22年9月比約129億円減った。8月28日には契約数が500万回線を突破。6月の解約率は前年同月比3分の1以下の1・93%になるなど、復調がうかがえる。総務省が今秋に行う、建物内でもつながりやすい周波数帯「プラチナバンド」の新規割り当て対象事業者として楽天モバイルが有力視されていることも追い風となる。

一方、携帯通信回線の運用コストを抑える仮想化技術を主導した楽天モバイルのタレック・アミン共同最高経営責任者(CEO)が8月に退任した。三木谷氏は「個人的な理由で仕方がない」としつつ「ゼロから1を作る人と1を100にする能力は別だ」とする。

くしくも楽天グループ傘下でサッカーJ1のヴィッセル神戸は、世界的な名選手のアンドレス・イニエスタ選手が7月に退団したが、低迷した昨季と違い首位争いを演じている。ヴィッセル神戸同様、象徴的な人材が離脱した中でも、黒字化という目標の達成を果たせるのか。アミン氏の後任、シャラッド・スリオアストーア氏の手腕が試される。

日刊工業新聞 2023年月9月5日

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