関心高いが、8割は模様眺め…3Dプリンターの本格産業化はいつ?
大阪大学を中心に、3次元積層造形技術(アディティブマニュファクチャリング=AM)の学会発足へ準備が進んでいる。いわゆる3次元(3D)プリンターの研究開発、産業活用に向け、従来の学会の枠を超えて産学官が参集。欧米に比べて活用が遅れている3Dプリンターの産業化を推し進めるのが狙いだ。学会の母体となる「AM研究会」が活動を開始して1年。学会立ち上げに向けてどこまで機運を高めていくことができるのか、関係者の努力が続く。(尾本憲由)
「あと2年を切った」。6月末に大阪・中之島で開催された委員会の出席者から何度か同じ言葉が漏れた。大阪であと2年と言えば、2025年4月13日に開幕する「2025年大阪・関西万博」が真っ先に思い浮かぶが、こちらの“あと2年”はAM学会発足を指し示す。22年8月にAM研究会のキックオフミーティングを開催した際は26年4月発足を目標に掲げていたが、25年4月に1年前倒しした。AM研究会の委員長を務める阪大院工学研究科の中野貴由教授は「オールジャパンでAMに取り組み、日本のモノづくりそのものを一刻も早く元気にしないといけない」と語気を強める。
AM研究会ではキックオフミーティングを含め過去4回の委員会を、大阪と東京で開催してきた。毎回400―600人の参加者がリアルとオンラインで参加し、関心の高さをうかがわせる。研究会の中身も当初はメーカーやユーザー企業などの講演会だけだったが、3回目からパネルディスカッションも開催。コロナ禍でできなかった情報交換会もスタートするなど活動は軌道に乗り始めた。
現在の会員企業は120社、大学など教育機関は42校、研究機関は9団体が参加する。そのほか日本3Dプリンティング産業技術協会や日本AM協会、日本溶接協会3D積層造形技術委員会など関連する団体とも連携し、オールジャパンでAMの社会実装に取り組む構え。日本金属学会の産業共創研究会という枠組みで設立されたAM研究会だが、あくまで学会や業種を問わず参加を募り、オープンな学会を目指す。
6月末の研究会で中野教授は、参加者を前に何度も「儲かるようにならないといけない」と強調した。3Dプリンターへの関心の高さに比べて、日本での産業化の動きは遅れ気味。「(3Dプリンターで造形を請け負う)サービスビューローで儲かっているところが少なく、中小企業の機運もまだ盛り上がっていない」という危機感が発言の背景にある。
AM研究会では23年度を「共創・参加型研究会の具現化」フェーズと位置付け、学会発足に向けた法人化の準備を本格化する。従来の研究会に加え、下期から個別テーマを議論する分科会を立ち上げる計画だ。分科会では「サイエンス」だけではなく、「テクノロジー」「ビジネス」、さらには「アート」まで網羅する。さらに会員全員が議論に参加できる場も設ける考えだ。
AM技術はモノづくりのあり方を大きく変える可能性があり、すでに欧米では乗用車のオプション品など一部量産品で実用化が進み始めた。中野教授は「切削加工など従来の技術にAMを組み合わせることで日本にもチャンスは大きい」と指摘。ただ「400―600人が参加していても、まだ8割は模様眺め。もっと危機感をあおらないといけない」ともどかしさも隠さない。あと2年を切った学会発足を機に、反転攻勢を狙いたい。
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