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時間・場所・端末を越えて番組を身近に。TVerが拡張するテレビの展望

【連載】体験と礎 #7 TVer

スマートフォンやパソコンなどからテレビ番組を視聴できる動画プラットフォーム「TVer(ティーバー)」。2015年10月にサービスを開始し、現在、民放キー局の番組を中心に約650番組を配信する。23年5月には月間のコンテンツ再生回数が3.5億回を超え、サービスの利用状況は2800万MUB(※1)を記録した。
 現代は一つの大きな画面でテレビを楽しむことに加え、個人が持つ様々なデバイスにコンテンツが届く環境がある。テレビ放送を取り巻く状況が変化する中でサービスは何を目指し、その過程でプロダクトはどのように変化したのか。

テレビを開放する

TVerは22年4月にプロダクトの構成を大きく変えるリニューアルを実施した。リアルタイム配信や放送中の番組をさかのぼって視聴できる「追っかけ再生」など、今後の成長基盤となる仕組みを取り入れた。TVer(東京都港区)サービス事業本部プロダクトタスクの穗坂怜タスクマネージャーは「視聴者の生活やテレビを取り巻く環境が変化していく中で、『テレビを開放する』という社のミッションをサービス内で具体化する必要を強く感じていた」と振り返る。

TVerのミッション(同社ホームページより)

リニューアルではサービスの利用体験を向上するカギとして「TVer ID」を導入した。同IDは複数デバイスを横断して視聴履歴やお気に入り番組の情報を管理し、ログイン中の端末同士でコンテンツの再生状況を同期できる。ユーザーはTVer IDでログインすると視聴端末が変わっても利用状態を引き継ぐことが可能だ。例えば、帰宅途中にスマートフォンで見ていた番組を家に着いてからタブレットで見る場合に、移動中に見た場面の続きからその番組を再生できる。従来、テレビの視聴環境はモニターの前に人が滞在する物理制約をもとしている。TVer IDはそうした前提に対し、時間や場所、端末を超えてコンテンツを楽しむ環境を整備する。

またテレビ局と連携し、双方のサービスに視聴者を循環させる取り組みも強化している。ドラマ作品の例では番組の終わりに公式サービスとしてTVerを紹介し、ユーザー数の拡大につなげている。TVerでは最新回のアーカイブに加え、解説版やこれまでの展開を振り返るダイジェストなどを配信し、作品全体の視聴者数拡大を支える。最近ではTVerでの序盤のエピソードの配信期間を延長して番組の認知拡大を図りつつ、全話を配信する各放送局のオンデマンドサービスに誘導する事例も増加している。元々は「見逃し放送」を中心に認知を広げた同サービスだが、現在ではテレビコンテンツのタッチポイントとしても機能している。

「探す」から「出会う」へ

ホーム画面はTVerが「今見てほしい・知って欲しい番組」に出会う場として位置付けられている。利用者が目的の動画に円滑に辿り着けることを主軸にした設計の中に、新作番組や話題のテーマをもとに編成したコンテンツを一覧で表示している点が特長だ。
 「見たい番組がすぐ視聴できることはもちろん、新たな番組との出会いも提供するサービスに進化する上で、各画面の役割や構成を見直した。リニューアルにあたっては数億件のコンテンツを抱えるSNSや動画プラットフォームとは強みが異なる点を意識し、TVerだから提供できるテレビコンテンツとの出会いの形を目指した」(穗坂氏)。

サービス事業本部プロダクトタスク 穗坂怜タスクマネージャー

近年のデジタルサービスでは行動履歴や会員情報をもとにユーザーの関心にあわせたコンテンツを訴求する仕組みが注目されている。一方、TVerでは利用者の興味の幅を広げることで様々な番組の視聴を促す。ホーム画面では「キャンプ」「俳優」など番組ジャンルとは別の切り口からおすすめ番組をまとめた特集やランキングを掲出し、コンテンツとの出会いを拡張。サービス全体で「何が注目されているか」を軸に番組同士の接点を増やすことで、目的以外の番組を視聴する機会を広げている。

テレビ広告とインターネット広告の強みを両立

ユーザー体験の向上と合わせ、ビジネス面では広告市場の開拓に力を入れる。同社の運用型広告「TVer広告」は会員属性をもとにした配信ターゲットの設定やID単位での配信回数の制御が可能だ。番組を視聴している全員に空間を越えて発信できるテレビの強みと、個人に最適化した内容を表示するインターネット広告の特長を掛け合わせ、新たな媒体価値の開発に挑む。
 「テレビ広告がこれまで築いてきた『多くの人に情報を届ける力』に加えて、個人に対する視聴体験を向上する取り組みは広告主の期待につながっている。サービスの利用者には若年層が多く(※2)、テレビとの接点が少ない世代とTVerが今後どのような関係を築くか、多くの企業から注目されている実感がある」(穗坂氏)。

TVerオフィスに掲げられたCI(同社提供)

TVer広告の売上は前年比215%、案件数は前年比244%と成長に勢いを見せる。ユーザー構成比における34歳未満の割合は約35%(※3)と若者を多く取り込んでいる点も強みだ。23年1-3月ではスポーツのライブ配信などが増加したことを背景にM1層(20歳~34歳の男性)の割合が伸長した。穗坂氏は今後のサービス開発について「TVer IDを取得する利点や会員機能の認知を広げるとともに、利用者一人一人に合わせた『コンテンツと出会う体験』の向上に引き続き取り組んでいく」と強調する。ユーザー数の更なる拡大に向け、地方局との連携やオリジナル番組の開始などコンテンツの幅を拡充する取り組みにも積極的だ。


※1……月間ユニークブラウザ数、サービス全体の合計値
 ※2……TVer IDの会員情報とサービス起動時の定量アンケート(性別・生年月・郵便番号を回答)の集計より
 ※3……ビデオリサーチ調べ

濱中望実
濱中望実 Hamanaka Nozomi デジタルメディア局コンテンツサービス部
TVerではリニューアルのタイミングに合わせてバックエンドシステムの内製化にも取り組みました。技術チームの存在がより身近になり、サービスの意思決定や機能開発が従来以上に早く、柔軟にできるようになったとのこと。リアルタイム配信の開始以降、放送中の番組がSNSなどで話題になり、TVer上の視聴ページのアクセスが瞬時に増えることもあるのだそう。こうした場面ではプロダクトに関わるメンバー全体でコミュニケーションが活発になるそうです。運用型広告の成長が注目されているTVerですが、ユーザーの反応を捉え、プロダクトも進化を続ける点も事業を支えていると感じます。

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体験と礎
体験と礎
日常の何気ない体験を見直したりアップデートさせたりする視点を持つ製品開発の事例が増えている。デジタルデバイスがより身近になる中で「プロダクト」の概念もハードウェアに閉じたものではなくなった。働き方や暮らし方が多様化する中で、プロダクトの開発にはどのような視点が求められるのか。その作り手は社会とどう向き合うのか。(不定期連載)

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